脳科学

脊髄

傷ついた脊髄を人工的につないで手を自在に動かす「人工神経接続」技術を開発

カテゴリ:プレスリリース
 生理学研究所・広報展開推進室
独立行政法人科学技術振興機構(JST)
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内容

脊髄は、脳と手や足をつなぐ神経の経路となっています。脊髄が損傷し、その経路が途絶えると、脳からの電気信号が手や足に届かなくなり、手や足が動かせなくなってしまいます。今回、自然科学研究機構生理学研究所の西村幸男(にしむら ゆきお)准教授と、米国ワシントン大学の研究グループは、脊髄損傷モデルサルの損傷された脊髄の部分を人工的にバイパスしてつなぐ「人工神経接続」技術を開発。これにより、脳の大脳皮質から出る電気信号により、麻痺した自分自身の手を自在に動かすことができるようにまで回復させることに成功しました。神経回路専門誌Frontiers in Neural Circuits(4月11日号電子版)に掲載されます。

 研究グループは、脊髄損傷においては、脊髄の神経経路が途絶えているだけで、脳の大脳皮質からの電気信号を、損傷部位をバイパスして、機能の残っている脊髄に伝えてあげれば、手を健常に動かすことができると考えました。そこで、特殊な電子回路を介して傷ついた脊髄をバイパスし、人工的につなげる「人工神経接続」の技術を開発しました(図1)。実際、脊髄損傷モデルサルの損傷した脊髄を人工神経接続によってバイパスさせたところ、手の筋肉を思い通りに動かすことができるようにまで回復しました(図2)。

西村准教授は、「運動麻痺患者の切なる思いは、自分自身の体を自分の意思で自由自在に動かしたい、これにつきます。今回の手法はこれまでの研究とは異なり、ロボットアームのような機械の手(義手)を自分の手の代わりに使っていません。自分自身の麻痺した手を人工神経接続により、損傷した神経経路をブリッジして自分の意思で制御できるように回復させているところが新しい点です。従来、考えられてきた義手やロボットを使う補綴より実現の可能性が高い(早道である)のではないかと考えています」と話しています。

本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)の「脳情報の解読と制御」研究領域(研究総括:川人 光男 (株) 国際電気通信基礎技術研究所 脳情報通信総合研究所 所長)における研究課題「人工神経接続によるブレインコンピューターインターフェイス」(研究代表者:西村 幸男)の一環として行われました。

また、今回の動物実験に関しては、動物実験の指針を整備するとともに、研究所内動物実験委員会における審議を経て、適切な動物実験を行っております。

今回の発見

1.脊髄を損傷したサルの損傷部位をバイパスして、脳の大脳皮質の信号を脊髄の運動神経に人工的につなげて送る「人工神経接続」技術を確立した。
2.「人工神経接続」によって、麻痺した手を自在に動かすことができるまで回復した。

図1 損傷した脊髄をバイパスさせる「人工神経接続」技術を開発

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「人工神経接続」の模式図。損傷した脊髄の経路をバイパスして、人工的に脳と脊髄の運動神経をつなぐ技術。原画:理系漫画家はやのん。

図2 人工神経接続によって、筋肉を自在に動かすことができるように回復

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脳の局所電位を記録し、そこから腕の運動にかかわる電気信号を抽出しました。その信号にあわせて障害部位より下の脊髄に刺激をあたえたところ、刺激にあわせて腕の筋肉の収縮がみられ(腕の筋電図)、手を動かし、レバーを押すことができるようになりました。人工神経接続の電子回路をオフにしたときには、こうした手の動きは見られませんでした。

この研究の社会的意義

脊髄損傷患者の手足の運動回復に応用へ
今回の手法はこれまでの研究とは異なり、ロボットアームのような機械の手(義手)を自分の手の代わりに使わずに、自分自身の麻痺した手を人工神経接続により、自分の意思で制御できるように回復させているところが新しい点です。従来、考えられてきた義手やロボットを使う補綴より実現の可能性が高い(早道である)のではないかと考えています

論文情報

Restoration of upper limb movement via artificial corticospinal and musculospinal connections in a monkey with spinal cord injury
Yukio Nishimura, Steve I. Perlmutter, Eberhard E. Fetz
Frontiers in Neural Circuits 4月10日号掲載(電子版のみ)

お問い合わせ先

 
<研究について>
自然然科学研究機構 生理学研究所 
准教授 西村 幸男 (ニシムラ ユキオ)
Tel: 0564-55-7766   FAX: 0564-55-7766 
E-mail: yukio@nips.ac.jp 

<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室 
准教授 小泉 周 (こいずみ あまね)
Tel:0564-55-7722 Fax:0564-55-7721 
Email:pub-adm@nips.ac.jp

科学技術振興機構 広報課
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:jstkoho@jst.go.jp


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神経症とは

神経症とは1


神経症とは無限運動をしている円盤に例えられる
神経症者ではストレスを受けると心に神経症円盤を回転するモーメントエネルギーが発生して、円盤は回転し始める。円盤が回転し始めると、神経症者は神経症不安の原因解明とその対策に必死になる。必ず対策を発見しそれを実行するが失敗し、挫折感は更なる円盤の回転エネルギーを生む。一度この円盤の回転が始まると停止することはなく、殆どの人は一生神経症との戦いで終わってしまう。故に神経症を難治性の強迫性精神障害とする。

無為療法とは
無為療法は従来の療法と違って患者に一切の回答を与えない

無為とは治す行為をしないの意味で、禅の悟りの境地である「無」に通じる。無駄な論争を嫌う道元禅と同様、理由を問わず目の前の雑用に精を出すよう指導する。道元禅でもあらゆる解釈を排して単に座禅をする事を要求する。これを「座禅が座禅をする」と言うが、無為療法でも「雑用が雑用をする」でないとならない。

原因を究明せず、方法を発見せず、治療法を実行せず、失敗もせずとやると、神経症回転円盤に回転エネルギーが発生しないから次第に速度は落ち、最後に停止する。


神経症とは深刻な意識の分裂
健康な人では、動きと意識は融合していて、それぞれ別個に取り出すことが出来ない。これは健康で平安な状態であり、斎藤は「無」と表現している。
神経症者では、動きと意識はばらばらになっていて、意識は今動いている自分に疑いを持ちはじめている。これは正常でない状態であるから強烈な不安を誘発し、動きも停止する。



神経症とは意識(マナ板)上に料理の具を置いた状態
健康な脳では情報を処理するとマナ板(意識、コンピューターのCPU)上の具を当該の脳へ送り込み、マナ板上には何も残っていない。
神経症ではマナ板上に未処理の具、例えば「あるがまま、間髪をおかずやる、人のために努力する」等が置き去りになっている。
このために新たに入る情報を適切に処理できない。




神経症とは無意識で動けなくなった病気
健康な人が動く時は無意識あるいは半無意識で動く。無意識あるいは半無意識だから一度動くと動きが動きを呼び込み、止まることがない。


神経症者では動けないから動く時に意思を働かせる。しかし意思より強い強迫観念が存在するから間もなく動きは強迫観念により強制停止される。


神経症を治すとは、もう一度動きをに命令させることなのです。神経症者がそうなるには、動く前に条件をつける癖を無くす必要がある。即ち、すっと立ち上がり何かをするだけで、動けないからと特別の訓練を受けたり本を読んだり努力を重ねると、いよいよ強迫観念の虜になる。


神経症と化学的平衡
神経症が治るとは森田療法が言う完治とは違う。化学反応の平衡状態に似ていて、反応は右にも左にも行くが、一方的に右(健康状態)にずれた状態を神経症の治りと言う。
我々は化学の授業で化学平衡を学んだ。例えば酢酸を水に溶かすと下に示す平衡状態が現れ、酢酸の分子は3つの状態を同時に維持している。反応は右にも左にも行き、一定温度で一定の平衡を保つ。
CH3COOH(酢酸) CH3COO- +  H+(+-に電離した状態)

酢酸のビーカー中での状態
神経症を化学平衡で説明すると
神経症が悪い状態神経症の状態回復した状態斎藤の状態健康な人
神経症健康神経症健康神経症健康神経症健康神経症健康
100:110:11:101:1000:∞無限大
1日の大半が神経症に張り付いている神経症ではあるが仕事が出きる雑用がスムーズに出来て敢えて仕事、勉強、将来を考えないほぼ神経症全快状態だが、完全にフラッシュバックフリーにはなっていない脳が神経症状態を全く起さないから神経症とは何か理解出来ない

神経症と量子力学
神経症者のニュートン力学斎藤の量子力学
位置自分の位置を特定出来るし特定しようとする。自分の位置は麓にいるか頂上にいるかの二者択一である。
移動麓から山頂へは努力を重ねてゆっくり移動すると考える。麓から山頂へは1秒の100分の1で到達する。
改善従って以前に比べて改善したと言う。治りか神経症かの選択であるから途中の改善状態は存在しない。
ルート頂上へは連続するルートがあると考える。頂上へのルートは存在せず。
努力我慢して努力をすれば登頂に成功すると考える。我慢と努力が消えた時、既に頂上に立っている。

フラッシュバック(Flash-back)
フラッシュバックは神経症の本質であり、我々は中々根絶できない。フラッシュバックとは突然襲う神経症の激震であり、ちょっとした心のストレッサーで何時でも起こり得る。神経症者では毎時、毎分起きているから何時もフラッシュバックの状態であるが、神経症が治りかけた人、治った人ではこの回数が大幅に減っている。斎藤の現在の発生率は数ヶ月に1回で、ここ迄来るには10年の歳月が必要であった。


神経症の治癒過程
ムードスウィング(心の上下動)は無為療法を実施した直後から殆ど消滅するが、フラッシュバックは簡単には消えない。斎藤の場合、5年経った時点でかなり怪しい時があったが、継続的に無為療法をやることにより、今は数ヶ月に1度位に減少していて殆ど健康な人と変わらない。
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「無」を科学から検証する

「無」を科学から検証する

私は繰り返し「無」、あるいは無意識の重要さを説いてきた。「無」とは意識しない動作であり、健康な人達の日常は殆どこの動作で行われているから大変快調であり疲れない。私の一日の大半も「無」の動作であり、一々自分がこれから何をして何を終わらせたかは考えていない。この感覚は、丁度自転車を乗ることを思い出したら良いと思う。自転車に慣れない頃は自転車が倒れないことだけに心を集中して乗っていたであろうが、慣れてしまった今は自転車のことは全く考えていなく、ただ目を前方に向けているだけで頭の中は別のことを考えている。脳のエネルギー消費レベルは最低であるから疲れないし、その分より重要な決定に脳を使えて我々の生活は向上する。

未だ科学は、高度の判断する前頭葉がどれほど我々の意思決定に関与しているか解き明かしていないが、最近の研究で次第に前頭葉は我々が考えるほどには関わっていないのが分かってきた。2008/11/10日にサイエンスデイリーに決定は己の意思かのタイトルで研究が発表された。それによると、目が比較的簡単なイメージを捕らえて脳が動作を指令する場合、前頭葉が意思を決定するのではなく、頭頂葉にある運動前野が直接指令していると発表している。

2008年4月15日にもドイツのマックスプランク脳科学研究所から、我々は意識して決断しているようであるが、実はその7秒も前から無意識脳からの信号が発射されていて決断が予測できると言う注目ある発表があった。この事実は我々の日常生活から実感できる。例えば今日の午後にある所に行こうか行くまいか迷っている時に、強引に決定するのでなく、雑務の処理に追われつつ午後に至り、意外にもものの弾みでひょっと出てしまうのを経験しないであろうか。

健康な脳の活動を脳スキャンを使って調べるのは大変重要であると思う。今までこの種の研究がなかったから怪しい療法家、心理学者が、我々神経症者は努力して行動をし、不安に耐えて前進すれば神経症が解決すると指導して来た。その伝で行くと前頭葉を振り絞り考えまくれば健康になるはずであるが、健康な脳では意外にも意思を多用してなかった。むしろ動作を開始する時に前頭葉は静まり返っていたと実験で分かった。認知、判定、動作の決定は運動前野と言う無意識に近い領域で処理されていたのだ。

これを我々の日常生活の中で具体的に説明すれば、流しに立って皿を洗う動作を健康な人では意思でやっているようで、実は無意識にやっている。事実、斎藤は気持ちよく毎日の雑用を処理しているが、己の意思でやっているように見えない。むしろ汚れた皿を思う感覚であり、身の回りをきれいにしたい、早く次ぎの仕事に入りたいの思いが私を後ろから押して、気がついて見たら流しに立っていたが本質に近い。この無意識による動作の処理で最も際立つのは、強迫観念との衝突がないことだ。意思による強引な決定には必ず強迫観念が前に立ちはだかる。意思で雑用に立ち上がったとしても強迫観念の妨害で30分後にはへたり込んでしまうであろう。神経症者ではこれを仕事に出て環境の圧力で解決しようと試みるが、不自然な動きを試みる人に良い仕事は期待できないから、間もなく仕事にも行き詰ってしまう。

神経症者も健康な人も意思で動くは間違いなのだ。動きを開始する瞬間は意志が働いても、一端動きに入ると我々の無意識が動作を指令している。この健康な無意識を発動させるには努力が有害なのだ。努力で仕事場に行き、苦しい環境で食いしばるのではなく、今このストレスのない瞬間にひょっと立ち上がり何かの動作を開始してそれを継続する、即ち無意識を活発に動作させる状態が健康な世界であり、強迫観念と競合しない幸せな世界なのです。

努力をすれば神経症が治るは間違いであったのだ。

躁鬱病と自殺の危険性

躁鬱病と自殺の危険性
NEW YORK(Reuters Health)2002年7月19日

 成人で躁鬱病を患っている人は30代の前半そして発病してから7ー12年以内が自殺の危険性が高いとの研究が台湾の研究チームにより報告された。

躁鬱病とは激しい鬱状態と著しい高揚状態を交互に繰り返しその中間期には健康な状態もある心の病気でリチウムで現在は治療されている。

研究の結果、患者の25-60%が人生のある時点で自殺を試みていた。台北医科大学のシャン・イン・ツァイ氏の研究チームは患者の自殺の危険度とどの時点で危険であるかを調査した。

研究チームは台湾で神経症、鬱病その他の感情障害で入院した2,133名の患者の内、躁鬱病と診断されその後16年以内に自殺をした患者41名と同じ躁鬱病患者で年齢、性別、入院した時期が同じだが自殺をしなかった41名のグループを比較分析をした。

この研究結果は6月発行されたJournal of Clinical Psychiatry誌に掲載されている。

自殺した人のグループでは第1親等の家族に自殺していた例が多かった。更に過去7年の間に1度以上の自殺未遂をしている場合が多い事も判明した。

自殺の時期に付いては患者が35歳以前であり、発病から7ー12年経ち、病院に入院2年後が一番危険な時期であるのが判明した。西洋社会でも同じ調査がされたが患者の多くがアルコール依存症であったり麻薬中毒である為にはっきりしなかった。麻薬やアルコールの中毒は自殺ファクターになり得ると著者は言っている。

例えば西洋社会の躁鬱病患者の30%がアルコールや麻薬の中毒であるのに対して自殺した人の15%がやはりアルコール、麻薬の中毒であった。「西洋社会では躁鬱病患者の大半が一人暮らしをするのに対して中国人は家族と共に生活する。家族と生活する方が薬物依存に成り難いだろうし、一人暮らしはなりやすい」とツァイ研究チームは言う。

「医療に従事する人達はこの研究結果を踏まえて自殺を出来るだけ未然に防ぐべきである。もう1つの自殺予防は是非この病気を治す事である」と研究者は言っている。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)の個人差

PTSD(心的外傷後ストレス障害)の個人差


ある種の脳内神経受容体の数がその違いを作っているとの報告
By Robert Preidt
HealthScoutNews Reporter
2002年5月15日(ヘルススカウトニューズ)
我々は人が傷ついたり苦しんでいる様子を見ると恐怖にたじろぐ。しかしある人ではこの反応が強く起きるのが今までに確かめられている。最新の研究発表ではその原因は大脳辺縁系の中にある、ある種の神経受容体が不足している為では無いかと発表している。大脳辺縁系は内部脳であり、我々の感情をつかさどっている重要な器官です。

その受容体とはミューオピオイド受容体と呼ばれる器官で苦痛の緩和と快楽反応に重要に関わっている神経伝達組織の一部です。

「人に恐ろしい写真を見せてどのように反応するかを脳スキャンを使って調べこの受容体との関係を調べました。この研究がPTSD解決への糸口になると考えます」と研究著者は言う。PTSDとは心的外傷ストレス障害を意味し兵士、救助隊その他で悲劇的場面を経験した後に襲われる心的障害です。

「この研究結果は惨たらしい場面に反応する脳と神経化学組織であるオピオイド(脳内麻薬様物質)組織との関連性を示唆するものである。この関連性性が不快な刺激に脳がどう反応するかに重要な手がかりを与えるのです」とミシガン大学の精神科助教授であり論文発表者であるステファン・テイラー氏は言う。

この研究は昨日発表されたNational Academy of Sciences会報に記載されていたものです。

研究ではPETスキャンを使いミューオピオイド受容体と脳の活動の関係を調べた。大脳辺縁系の活動状態は血液流量をPETスキャンでモニターしながら調査された。

研究では12人の被験者が参加してPETスキャンを二度実施した。1回目のスキャンでは各人のミューオピオイド受容体の数が測定され、2回目のスキャンでは白黒写真の普通の被写体と不快な被写体を見せて脳の反応を見た。

不快な写真とは血のりの付いた顔や死体であり、普通の写真とは和む景色と特別の意味が無い普通の顔写真です。
不快な写真を見た瞬間、全員の大脳辺縁系の活動が活発になりましたが、活動量はミューオピオイド受容体の数が少ない人が大きかった。

「ミューオピオイド受容体が不快な刺激に対する過剰な脳の反応を抑制するようである。ストレスに激しく反応する人の脳のメカニズムが分かればPTSD治療へ更に1歩前進できる」とテイラー氏は言う。

あるPTSDの専門家によると気分の悪くなる光景に人はどう反応するかの研究で、今までにこのミューオピオイド受容体が注目された事が無かったそうです。

「今までに大脳辺縁系が感情に関わっている事が分かっていた。今回の研究は更にその中のミューオピオイド受容体が特殊な役割をしている事が分かった。この研究でよりPTSDが理解できるようになる。次ぎはトロウマを経験した人でPTSDを起こした人と起こさなかった人のミューオピオイド受容体の数の比較です」とシナイ山医学校とブロンクス退役軍人医療センターのストレス障害研究部門主任であるレイチェル・イェフダ氏は言う。

PTSDが発生する場合、ミューオピオイド受容体の数がストレスを受ける前から少ないか、あるいはストレスを受けた後少ないか、両方が考えられる。

「少ないミューオピオイド受容体の数が不愉快な経験に対して強く反応する原因なら、何故人により同じ経験をしてもPTSDになるかならないか分かるような気がする」とイェフダ氏は言う。

ハゲ、ニキビはストレスホルモンと関係が深い

ハゲ、ニキビはストレスホルモンと関係が深い
ヘルシープレイスニューズより

By Adam Marcus
HealthScoutNews Reporter


2002年5月13日(月曜日)

 ニキビを気にし過ぎると皮膚に良くないかもしれないと言う研究報告。
今度発表されたドイツからの研究報告によると不安、鬱と重要な関係があるストレスホルモンが皮膚脂肪(セバセアス)線の活動をもコントロールしている事が分かった。コルチコトロピン分泌ホルモン(CRH)と呼ばれる物質が脂肪分泌線を刺激して多量の脂肪を分泌してニキビと脂肪皮膚を作り出していると報告している。

コルチコトロピン分泌ホルモン(CRH)受容体の数及び種類は男性ホルモンと成長ホルモンに左右される。その意味する所は男女両方に見られる頭部前部と後部の男性型禿げはコルチコトロピン分泌ホルモン(CRH)が関与している可能性を示している。だがこの関連は現在の所はっきりしていない。

この報告は明日発表されるナショナル・アカデミー・オブ・サイエンスの会報に載る予定である。

コルチコトロピン分泌ホルモン(CRH)は動物が危機に頻した時に「逃げるか戦うか」の動作を決定する主用物質です。この物質は脳で生産されて体の各部に運ばれ細胞の表面にある受容体を通して影響を与える。しかし脳以外にも例えば皮膚でもこの物質が生産されているであろうと推測されている。

ベルリン自由大学のクリストス・ゾボリス氏の指導する研究チームは培養した人間の皮膚細胞の中のコルチコトロピン分泌ホルモン(CRH)の活動を調べた。特に毛根胞の近くに存在するセバセアス腺に注目した。そこではCRHは様々な形で存在してCRHが増えると脂肪腺での脂肪分泌を活発化させた。

バトンルージュにあるルイジアナ大学ペニントン生物医学研究所の内分泌学者であるサミュエル・マッカーン氏はこの研究結果は今後再確認される必要があると言う。

しかしもし再現性が確かめられると皮膚症状を治療するのに大変便利であると氏は言う。CRHを抑制する薬で多脂肪皮膚の治療が出来るばかりで無く、ばんそうこうも必要が無くなるかもしれない。

ストレスとニキビの関連は神話でありそれは無いと言う学者もいて、例えばアメリカ皮膚学会のウェッブサイトがそう主張している。しかしニューヨーク市の皮膚科学者であるダイアン・マドフェス氏は関連ありと見ている。

「ニキビを考える時、皮膚にある脂肪腺がオンになったりオフになったりしていると見ています。ある人ではオンになる傾向が高く、あるいはそれとも脂肪腺が大きいか、より緻密に固まった脂肪腺群があると考えます」とニューヨークのべス・イスラエル医学センターの臨床教授でもあるマドフェス氏は言う。

即ち脂肪腺を刺激するCRHホルモンは脂肪腺から更に脂肪を分泌させて毛穴を封鎖しニキビを作る可能性がある。

今は皮膚症状を治す時に患者のホルモンを少し修正して治療をする。「違った薬を使う時はやり方が2通りあります。1つ目は脂肪腺を刺激するホルモンの生産を抑制する、2つ目は脂肪腺の中にあるオン、オフのシグナルを変更をする」とマドフェス氏は言う。

問題は他の不愉快な症状を抑えながら皮膚を治療する事である。例えば女性患者では男性ホルモンであるテストステロンを抑制しても問題は起きないが、男性では乳房が膨らむと言う副作用がある。勿論これは男性に好ましく無い。

クリーブランドのケイスウェスタンリザーブ大学の皮膚科のジェローム・リット氏は皮膚の立場に立って新語を作った。それはSWATでSはストレス、Wは心配、Aは不安、Tは緊張を意味します。

「ストレスが加わると我々の体はストレスに対処する為に体に一連の反応を呼び起こします。ストレスを感じる体は最も必要な臓器あるいは体の部位に血液を集中的に送ります。皮膚はその順位では下位に位置し、一番割りを食うのです」とリット氏は言う。

慢性的ストレスは皮膚細胞の代謝を遅らせ、乾燥皮膚症状を悪化させる。有害な副産物を蓄積させて男性ホルモンを多量に分泌させると脱毛と言う事が起きると氏は言う。

軽い鬱状態の女性は長生きする

軽い鬱状態の女性は長生きする

2002年5月1日水曜日
ウィリアム・ホームズ アソシエイティド プレス記者


最近の研究によると軽い鬱状態の実年女性はそうでない人より長生きするらしい。
この報告は今までの研究とは反対の結果を示している。今までは鬱が深まるに従って死亡率は高まると言われていた。

「これは我々が期待していたのとは全く反対な結果です。若い人が鬱状態の時は自殺率との関連は明らかなのですが、御年寄りでははっきりしなかった」とデューク大学精神行動科学教授のダン・ブレイザー氏は言う。多分軽い鬱は生存のメカニズムかも知れないと彼は言う。

「アメリカ老人精神医学誌5―6月号に掲載されたデューク大学の研究結果は軽い鬱と死亡率の関係を示す最初の研究結果です。今までの発表は全て激しい鬱との関係であった」とブレイザー氏は言う。

デューク大学の研究は65歳以上の2,401人の女性と1,269人の男性を対象に行われた。1986年から1997年まで3年置きに健康を調査した。20項目の質問に答える形でグループを鬱、軽い鬱、正常の3つのグループに分けた。ブレイザー氏によると10.5%の女性が軽い鬱状態と判断された。

この軽い鬱状態の女性は平均で他のグループより60%も死亡率が低い事がわかった。研究では年齢、慢性病、その他も考慮して死亡率を計算している。男性グループでは鬱と死亡率の関連性は発見出来なかった。

「面白い結果が出たと言う以外は論評を控えたい」とブレイザー氏は言う。

この結果は以前提出されたミシガン大学精神科医であるランドルフ・ネッセ氏の理論である「軽い鬱状態は問題を上手く対処するのに良い状態であり、危険な外界から身を避けさせる役割をする」と言う理論を再確認しているかも知れないとブレイザー氏は言う。

ネッセによると人は失望、失敗を上手く乗りきる為に気分の落ち込み、鬱を必要としている事になる。鬱を感じない人は出来もしない事をしようとして人生を無駄遣いしていると彼は説く。

ブレイザーの研究に加わらなかったピッツバーグ大学の精神科医であるリチャード・シュルツ氏はこの研究に少し疑問を持ち、今までの研究では軽重を問わず鬱状態は死亡率を上げると指摘している。

夢と鬱病 

夢と鬱病 
ネイル・シャーマン ヘルススカウト記者
2001年4月13日



最近の科学報告では、もし鬱病の人が貴方の家族にある場合は、貴方のレム睡眠に入る時間が早めである可能性を示しています。

眠りに入ってから60分以内に夢を見る人は、1時間半位で夢を見始める人に比べて2倍の確率で鬱病が発生する事が分かった。これは1人の鬱病患者がいる家族を調べて、その家族のメンバーで夢を見始める時間を比較して分かった事実です。この発見で、鬱病を発生させる脳内の化学物質の発見に役立つであろう。ただしもし貴方の家族に鬱病の人がいなければ、この夢を見始める時間と貴方の鬱病の関係は意味がありませんので、心配する必要がない。

ニューヨークにあるロチェスター大学の精神医学と神経学の教授であるドナ・ジャイル博士は「レム睡眠が早く起きる現象は、鬱病を発病する前に最初に現れる候で、今まで鬱病を患った事が無い人にも当てはまります。レム睡眠に入るまでの時間が短い人でその人の家族に鬱病がいる場合は、鬱病になる確立が2倍に上がります。」と言う。

夢睡眠(REM: Rapid Eye Movement)は、我々が毎晩睡眠する時に脳が通過する5つ活動形態の内の1つですが。脳が最初の4段階の眠り水準を通過する時、レム睡眠では脳はあたかも我々が起きているときのように活発に活動する。「鬱病の人は睡眠問題を抱えておりそれは寝過ぎるか、寝入るのが難しいかであるが、レム睡眠に入るのが早過ぎる現象をはっきり認めるのが難しかった」とジャイル博士は言う。

ジャイル博士等は70家族の352人について調べた。その内50家族は少なくても1人の鬱病患者を抱えていた。研究室で彼等の睡眠パターンを調べ、特にレム睡眠に入る時間に注意を注いだ。

「この研究は1985年以来引き続き行われているものです。特に1970年代に活発に行われた研究の結果、分かったのは鬱病患者ではレム睡眠に入る時間が早い傾向です。我々は鬱病患者の家族メンバーで、そのような早くレム睡眠に入る人が、鬱病になる確率が高いと言う仮定が成り立つかどうかを研究して来ました」とジャイル氏は言う。

脳内化学物質である神経伝達物質のアセチルコリンが、この正常でない眠りパターンに関わっているのではないかと博士は見ている。「コリン作用システムがレム睡眠を引き起こします。コリン作用に感受性が高い人、即ちアセチルコリン受容体を多く持つ人が鬱的気分を起こしやすい事が分かっている。我々はコリン作用システムが常に鬱病と関連があるとは言わないが、我々が調べたレム睡眠が早く始まる家族では、コリン作用システムが実際鬱病の弾きがねになっていると我々は確信する」と博士は述べる。コリン作用システムは神経細胞あるいは繊維から出来ておりアセチルコリンを神経伝達物質として使う。

アメリカでは18歳以上の成人の内9.5%に当たる1800万人の人が毎年鬱病になるか鬱状態を経験していると精神衛生財団が発表している。その内女性の患者は男性の2倍程である。

メリルランドのベテスダにある、精神衛生財団の臨床精神生物学の主任研究員であるトーマス氏は「レム睡眠に入るのが短い傾向は何も鬱病だけではありません。変則的睡眠パターンは分裂病や睡眠発作病の患者にも見られる」と言う。

ジャイル博士の次ぎのステップは、アリセプトと言う薬を使用して、被験者のアセチルコリンを活発にさせて、睡眠パターンを調べる事です。アリセプトはアルツハイマー患者の記憶喪失を食い止め、睡眠パターンを変える薬で、東京にあるエイザイとニューヨークにあるファイザー社が共同開発したものです。

「もしレム睡眠に早く入る人達がアセチルコリンに敏感な人達なら、この物質が鬱病の発生に重要な役割をしている事になる」とジャイルは言う。

自殺の原因は遺伝子にある可能性

自殺の原因は遺伝子にある可能性
2001年4月6日  
デイリーユニバーシティーサイエンスニューズから
 
アメリカ病気治療予防センターによると自殺はアメリカの8番目の死因になる。特に15歳から24歳までの若者では3番目の死因である。最近号の分子精神医学誌にはフランスとスイスの研究者の2つの論文が掲載されている。それによると自殺に関係がある2つの遺伝子の変異体が発見された。その意味する所は自殺の原因には遺伝要素が絡んでいるらしいと言う事である。

最初の論文である「自殺企図とトリプトファン水酸化酵素遺伝子」を読むとある一定の遺伝子要素が自殺企図にかなりかかわっているらしい事が疫遺伝子学研究結果から明らかになって来た。神経伝達物質であるセロトニンをコントロールする部分が重要な役割をしているらしい。このレポートではトリプトファン水酸化酵素(TPH)の遺伝子コード読み取り部分に焦点を合わせている。この酵素はセロトニンの生物学的合成率を制御し自殺企図に関連があると見られる部分である。

研究では231人の自殺未遂者と281人のそうでないグループのトリプトファン水酸化酵素遺伝子の中の7つの変異体を調べた。3’と呼ばれる暗号領域でない部分の変異体と自殺未遂とは重要な関係があるのが発見された。関連性は特に激しい形の自殺未遂及び強い鬱病の履歴を持つ被験者に目立った。この研究と以前からの研究結果が示すのは3’と呼ばれるトリプトファン水酸化酵素遺伝子の変異体は自殺思考、不安定な感情、衝動的攻撃性等を引き起こすファクターになっていると推測される。

2番目の報告のタイトルは「自殺企図と低活性セロトニン搬送遺伝子の関連性」である。今まで研究で自殺企図とセロトニンシステムの機能不全は重要な関連がある事が分かっている。データが示す所では激しい自殺行為では特にはっきり現れている。セロトニン搬送遺伝子の促進領域にある(S/L alleles)機能的変異体と呼ばれる部分が自殺企図と関連しているらしい。この遺伝子のS対立遺伝子はセロトニン搬送遺伝子の表現の弱さおよび低セロトニン吸収レベルとも関連している。

著者は西欧白人系の51人の激しい自殺未遂者と139人の全く自殺未遂をした事が無い人達を調べて遺伝子調査をした。S対立遺伝子とSS遺伝子型の現れる頻度は自殺未遂者に特に多く見られた。この研究と以前からの研究を総合してセロトニン搬送遺伝子の暗号読み取り部分の変化が激しい自殺未遂と関連があるのが分かって来た。

外向性と内向性の真の違い

外向性と内向性の真の違い

Healthyplaceの記事から
 
「個性と社会心理」誌の9月号のよると外向性の人は人と交わって幸せと一般に考えられているが実際は内向性の人より人と過ごす時間は決して長い事は無いと論じています。
「この結果は外向性の人が幸せであると説明するには何か他の要因があると考えないとならない」とイリノイ大学の心理学助教授でありこの研究と著者であるりチャード・ルーカス氏は言う。外向性の人はより人との交わり(温かみ、愛情ある感情的結びつき)に調和するのに対して内向性の人はこれらに対してより中立的であると氏は主張する。

研究者は39の国から来る6、000人の学生に外向性と社交性のレベルを調べる為に質問項目を用意して調べた。期待通りに外向性の学生は友達と過ごしたりする社交的活動により興味を示した。しかし他の回答は研究者を驚かせた。

「貴方は研究課題に取り組む時1人の方が良いですが、それともグループでやりたいですか」と外向性の学生に聞いたところ回答は内向性の人と同じで1人でやりたいであった。「貴方は1人で過ごさなければならない時自分1人でいるのを楽しんでいますか」との質問に外向性の人は内向性と同じく1人でいるのを楽しんでいるであった。

「外向性の人が人と時間を過ごすのが単に楽しいというので無く、何か別のファクターがありそうです。例えば喜びというような楽しい感情が彼等にあるのでしょう」とルーカス氏は言う。研究ではルーカス氏はそれを報酬反応性と呼ぶ。即ち人との交わりにより強く反応する感覚である。結果的に内向性の人より社交を好む。この幸せ感覚が更に外向性の人を社交の場に向わせる。

内向性の人に見られるちょっとした不幸感は悲しみとか鬱状態ではなく単に外側世界に対する比較的冷めた感覚傾向に過ぎないと氏は言う。

内向性の人は外向きに活動するのを要求される社会では誤解される傾向があるとインディアナ大学の心理学教授であるバーナード・カルズッチ氏は言う。「内向性の人は必ずしも社交技術が下手で1人でいたいと言うので無く、単により控えめに静かにしていたいだけである」と氏は言う。「問題は外交であるか内向であるかではなくて、社交的な場で選択する余地があるかないかだ。もし貴方が内向的で静かな場所が好きなら騒音と刺激に満ちている場所より静かな場所のほうが余ほど幸せであると言う事です」と氏は続ける。

カルズッチ氏は「内向は恥ずかしがりとは違う。内向の人は1人でいるのを好むに対して恥ずかしがりは人と一緒にいたい。しかしグループに入れるかどうかを心配する人です」と指摘する。

大人の脳に新しい可能性 

大人の脳に新しい可能性  

タイム誌2000年8月14日号より
アリス・パーク
 
フレッド・ゲージが登場するまで脳科学者の大半が脳細胞即ちニューロンは我々が生まれたときに持っていた数が全てでそれ以後増加しないと信仰のように考えていた。わずか2年前にカリフォルニア州ラホラにあるソーク生物学研究所のこの49歳になる神経生物学者が革新的実験結果を示した。それによると脳細胞は継続的に再生産されていて特に学習と記憶にかかわる脳の部分で再生産されている事が分かった。ゲージの発見で科学者達は最も基本的問題で考え直さなければならなくなった。それは脳とはどう機能するかである。

更に驚かされるのはこの脳細胞の供給源は神経幹細胞と呼ばれる基本細胞で、この細胞は成長する過程で受ける化学信号によりあらゆる脳細胞に成長可能なものである。この幹細胞は更に皮膚、血液、肝臓等何にでも変化成長する原始的肝幹胞の一群に属する可能性をこの実験では示唆している。ゲージは大脳辺縁系内にある海馬の一部に活発に生育している神経幹細胞が存在している事を突き止めた。彼はこの幹細胞の再生産が脳内化学物質の中にある幾つかの成長因子の増減でコントロールされているのではないかと考えている。

今日科学者はもはや脳が新しい神経細胞を生産しているかどうかは議論しない。その代わりこの脳細胞の成長が如何に癲癇やストレスや鬱の治療に役立てるかに移っている。既にある種の動物実験では動物がストレス下にあるとき脳の学習センターでの神経成長が著しく低下する事が分かっている。これは我々がストレスが加わった後に鬱が発生する事実を裏付ける物である。

ゲージは行動の変化例えば運動をする事が神経成長に影響与える可能性があり脳内再配線が可能では無いかと考えている。かれは「この発見で自分自身を変られる可能性が出た」と言う。我々は今まで心が体をコントロールすると考えていた。これが逆転するのであろうか。我々の行動が脳の構造を変える事があるのであろうか。遺伝子要因か環境要因かの従来からの考えを頭に求める大変過激な思考である。ゲージが長い間信じられてきた生物学的事実をひっくりかえしたのであるから十分考える価値がありそうである。

神経症遺伝子の発見

神経症遺伝子の発見
ネイル・シャーマン

http://www.healthyplace.com
不安を決める長い遺伝子と短い遺伝子 2000年6月14日

貴方が手の平に冷や汗をかいたり、強迫観念に襲われたり、パニックになって心臓が不安で激しく鼓動したとき今までは貴方の頭の性にしていたと思いますがこの際遺伝子を考えてみたらどうであろうか。科学者の研究によると神経症には遺伝子が絡んでいるらしい。この発見により今後人がパニック障害や神経症になりやすいかどうか医者が診断し易くなる。

コロンバスにあるオハイオ州立大学の心理学助教授であり著者であるノーマン・シュミット氏は「神経症は遺伝性である」と言う。「問題はどの特定の遺伝子がその役割をしているかです」脳内の化学物質をコントロールするある種の遺伝子が不安発生により関与していて、その遺伝子を持っている人は持ってない人より強く不安が起きることが実験室で確かめられたと今日発行のアブノーマルサイコロジー誌が伝えている。

アメリカ神経症協会によるとアメリカでは1千900万人以上の人が神経症に苦しんでいる。不安と恐怖は
慢性化していて軽減する可能性は少なく治療をしないでほっておくと次第に悪くなる。取りついた強迫観念、フラッシュバック、身体的パニック症状、悪夢は苦痛以外のものでなくそれから逃れるために神経症者はアルコールや薬物に依存する傾向がある。

アメリカ保健局の研究者が発見した5-HTT遺伝子と呼ばれるセロトニン搬送遺伝子の中で長いタイプの遺伝子が問題を起こしているらしい。このタイプの遺伝子は脳内の細胞がお互いに連絡を取るときどれほどセロトニンを使うかを決定している。セロトニンは化学物質で脳内で神経情報の伝達の役割をしている。シュミット博士によると「神経症発症には単に遺伝子が関与しているだけでなくどれほど急激にセロトニンがニューロンに吸収されるかそのスピードが問題なのです」

「ニューロン間にたくさんセロトニンがあればそれだけ神経細胞同士が情報をスムーズに交換できるのです。すなわち脳細胞が容易に話し合いが出来ることを意味しています。この長いタイプの5-HTT遺伝子はニューロン間のセロトニンをすくいあげる力が強いのです」と博士は言う。シナプス、すなわち神経細胞の間隙にあるセロトニンが吸い取られてしまうと脳細胞は情報伝達が出来なくなり不安とか他のマイナス感情発生の原因になる。

この5-HTT遺伝子の変種が不安発生の原因になっているかテストするためにシュミット博士と保健局の研究者は72人の被験者を2つのグループに分けてテストをした。1つのグループは長いタイプの遺伝子をもつが心および体の病気を発生してない人達。他は短いタイプの遺伝子を持つ人達のグループ。この2つのグループについて不安の感受性を調べた。息苦しさを感じさせて窒息するような不安が起きるかどうかのテストです。

被験者は10分の間隔を置いて2回の呼気をする。最初は一定の圧力をかけた部屋の空気。2回目は炭酸ガス混合空気、この空気を吸うと瞬間的に息切れ状態になる。研究者は参加者に2回目の呼気の後、不安の強さを述べるように言った。同時に被験者の血圧と心拍数も記録した。

長いタイプの遺伝子を持つ被験者は短いタイプの遺伝子を持つ人達より炭酸ガス混合空気を吸ったとき強い不安を感じたと言った。不安に感受性が高いグループでしかも長いタイプの遺伝子を持つ人達は他のグループの人達より長い時間早い心拍数を経験した。「以上がこの報告書の目新しい部分です。誰も今までは遺伝子と神経症の相互関係を調べなかった」とシュミット博士は言う。

メリランド州のロックビルにあるアメリカ神経症協会の会長であるジェリリン・ロス氏は言う。「この発見は大変重要なのです。何故ならどんな心の病も大変不名誉な事とされているからです。人は皆こう言います。すべて考え方の問題、しっかりしなさい、克服するのですと。この発表は最近富みに増えている脳スキャンの研究とともに神経症をわずらっている人の脳はそうでない人の脳とは違うことを示しています。今まで噂で言われて来た神経症は家族遺伝性の話を裏付けるものです。私は数千人の患者を見てきていますが、近親者に神経症がいない例は殆ど無かった。神経症の発見は早ければ早いほど不名誉、恥じ、当惑から軽減される。今我々が理解しないとならないのは神経症は事実存在していて重大であり治療されるべきなのです」とロス氏は言う。

賭博依存症と脳内化学物質

賭博依存症と脳内化学物質

                                        

CCI JOURNAL 1999年4月19日号から

デイビッド・カミング博士(at the City of Hope National Medical Center in Duarte, Calif.,)によれば人をギャンブル狂にする遺伝子があるらしい。

博士は先ず人間のセックスとか食事行動は脳内にある報酬回路と密接に結びついているのではないかと考えている。人間が食事をしたりセックスをすると例えばドーパミンと呼ばれる快感を与える神経伝達物質が分泌されます。その報酬が更に食べたりセックスをさせるわけです。科学者はドーパミンとかそれに類する物質がコカイン中毒に関係していると認めている。カミング博士はドーパミンや報酬回路が果たして病的ギャンブラーと関わりがあるかを調べている。

博士は報酬回路に関わる遺伝子即ちドーパミン受容体を作る細胞を助ける遺伝子に注目した。ドーパミン受容体とは脳細胞の表面にある蛋白質でドーパミンと相互に関連しあう物質である。ドーパミンが受容体に入ると脳は快感を受ける。博士の研究によれば病的ギャンブラーはドーパミン受容体遺伝子の一つを50%の割合で持ち一般の人は25%の確立でその遺伝子を持つと言う。

この遺伝子を持つとドーパミンによる満足感が不足するし慢性的なドーパミン不足に見舞われる。そのためギャンブラーは普通の刺激では満足できないのであろうと博士は述べている。このドーパミン不足を補う為にドーパミンを強く出す行動に出る。この欲求が人を繰返し博打に誘うと博士は考える。

面白いのはギャンブラーは博打をする時に出きる天然の化学物質に中毒になっているらしい。博打は長い間中毒の代名詞になっていた。ドーパミンだけが脳に幸福感をもたらす化学物質ではなくセロトニンとかエンドルフィンをコントロールする遺伝子も賭博癖に関与していると博士は言う。

もちろん遺伝子だけがある人を賭博癖にするものではない。専門家は例えば家族の死などがもともと賭博にのめり込み易い人を更にそれに追い込む可能性を指摘している。もちろん重度の博打中毒の人もかなりコントロールを回復する可能性もあるがしばしばその病気が本人の判断を狂わせる。

ニューメキシコ大学のロバート・サザランド博士は何故しばしばギャンブラーは間違った判断をするのか調べている。博士は脳のある部位に損傷がある患者が物事を決定する時に間違ってしまう事実から研究を始めている。損傷を持った人は何をしたいか説明出来るが系統だってまとめることが出来ない。最後には衝動的に何かを決めてしまう。

サザランド博士はギャンブル依存症の人のドーパミン受容体が多く見られる脳の部位に果たして微妙な異常が見られるかどうかを調べている。その為に博士は依存症の人と健康な人をコンピュータースクリーン上に示されたトランプゲームをしてもらいテストをした。参加者は4組のトランプカードの組み合わせから選ぶ事が出きる。その内の二組みは報酬も大きいが負けると損失も大きい。この高い賞金の組みを常に選ぶ人は必ず損をする事になる。サザランド氏によれば誰も勝てないと言っている。

それに比べて他の二組を選ぶ人達は儲けも少ないが大体とんとんに終わる。以前の研究では脳に障害を持っている人はこの危険な組みを選ぶ癖がある。博士の予備試験では衝動的なギャンブラーは賞金の大きい組みを好む傾向がある。結果的に大負けするのだが。ギャンブラーで無い人は安全な組みを選ぶ。彼等は危険を避ける為にそうすると言っている。

サザランドはギャンブラーは前頭葉前部腹側部(Ventral prefrontal cortex)に問題がありと見ている。そこは感情(直感)で判断し理性的に組み立てる脳の部位である。彼はギャンブラーは自分では理性的に判断出きると言うが実際にはその決断の真っ最中には的確な選択が出来ないのではないかと疑っている。たぶん彼等は前に成功した時に出たドーパミンに過度に影響されているらしい。

ギャンブラーの選択と脳の関連性を調べる為に博士はイメージテクニークを使ってトランプゲームの最中に脳の何処がもっとも活発に動いているか発見しようとしている。この技術が前頭葉前部の異常を示すのではないかと博士は考えているが未だ発見されていない。

フロイトの夢分析を現代の科学者は如何解釈するか

フロイトの夢分析を現代の科学者は如何解釈するか

CNNニューズウェッブサイト1999年11月1日号より


ニューヨーク(AP)
ジークムントフロイトは多分タバコはタバコと認めるであろう。しかし夢となると夢は単なる夢で無いと頑固に主張するに違いない。夢とは何か、この疑問は心を研究する人々の意見を分けた。フロイドは夢こそ他の方法では計り知れない無意識を知り得る窓であり無意識探査への王道と説いた。しかし最近では夢は単なる眠っている脳からの無作為に出る雑音であるとの反対意見もある。100年前は夢とは鬼火すなわち真実が現れる、あるいは将来を予見する霊魂の一瞥と考えられていた。しかしフロイトは一冊の本でその全てを変えた。

1899年11月4日に出版された「夢の解釈」では夢とは無意識探査の有力武器と再定義した。突然夢は我々心の内部の全く分からない無意識からのメッセージと言う事になった。精神分析家のレオンホフマンは次のように言う。「フロイトの前は夢とは霊魂であり来世の事柄であり来世からのメッセージと考えられていた。夢は宗教や哲学の言葉で語られた。フロイトは自身の研究から我々の心は我々の意識を超越し夢は意味を持つと言った」。

一世紀後の今、科学者は最近の脳映像技術を屈指して果たしてフロイトが正しいかどうかテストしている。脳のどの部分が夢を見ている時に活動して、どの部分が活動してないかを研究している。「この研究は色々な考えが正しいかどうか科学的に検証するのに役立っている。特に再現性を重要視する科学的アプローチは重要である」とニューヨーク市の精神医療家であるエドワードナーセシアン氏は言っている。

フロイトは夢とは深層に横たわる願望でありそれが象徴的に現れたものであると主張する。その目的とは何か。常に内から湧き起こる無意識の衝動が我々を眠りから覚まさせないためであると。「夢は睡眠を守るためにある。これがフロイト理論のエッセンスです」と聖バーソロミュー王立ロンドン医科大学の神経科学者のマークソルムズ氏は言う。

このフロイトの理論は現在殆どの精神分析家に支持されてない。しかしフロイトの「夢は我々が意識でコントロール出来ない無意識から出てくるメッセージ」と言う考えは最近ますます注目されている。「フロイトは無意識がどう言う過程をたどりどのように作用するか迫ろうとした」とハーバード大学の精神家医であるデイビッドウェステン氏は言う。

でも学者はその考えに必ずしも賛成しなかった。1953年にREMと呼ばれる睡眠状態を発見した。REMのl状態では脳は眠っていても起きているのと同じ程活発に活動する。目は目蓋はつぶってはいるがあたかも活発に動き回るスポーツを見ているが如く敏捷に動く。もっとも面白いのはそのREM睡眠の最中に被験者を起すと殆どが夢を見ていたと言う。

この発見からREM状態を夢を見ている状態と科学者は推定した。このREMを起している脳の部位を探すとそれは脳橋と呼ばれる脳幹の原始的部分であり呼吸のような反射運動に関わる部位であり深層の欲望とか希望とか恐怖とは関係がない部分であると分かった。

そこで科学者はフロイト説は間違いであると結論し夢は脳が意味も無く激しく機能しながら作り上げた任意のイメージであり夢の意味は意識と関係があり無意識とは関係が無いとした。しかし最近の研究によるとREMと夢は同じでないと分かった。ソルムズ氏は脳幹に障害がある人をテストした。この人達はREM睡眠は出来ないがしかし夢を見るのが分かった。しかし脳の高位部分に障害がある人は夢を見る事が出来ないがREM睡眠をするのが分かった。

最近の研究ではREM睡眠は必ずしも夢と直結しているので無く睡眠中REM状態で無い時も夢を見ているのが分かった。REMとは夢の引き金にあたると結論した。「REM睡眠は夢を見るには一番良い場所ではあるがREMだけが夢の場所ではない」とボストンのタフツ大学精神医学教授のアーネストハートマン氏は言う。

最近の脳映像技術の進歩によって我々が夢を見ている時に脳の何処の部分が活発に動いているか分かるようになって来た。国立聴力障害研究所のアレンブラウン博士は今陽電子照射断層撮影で睡眠状態の人の脳を調べている。博士の発見がフロイト説が正しいかどうか説明出来るかも知れない。

「我々の映像がフロイト説に一致するかを調べています」と博士は言う。例えば夢の最中には脳の感情をつかさどる場所および感情を伴う記憶をする分野が活発なのが分かる。それは我々の夢が激しく感情に訴えるのがわかる。物を認知する分野と映像を作る分野も活発である。これは我々の夢が強く映像に訴えるのを説明している。

それに引き換えブラウン博士が言う所の実行をつかさどる分野が活動してない。これが夢がしばしば意味不明で道理にかなってなく順序がめちゃくちゃなのを意味している。大体これらの発見はフロイトが言う「夢は無意識からのメッセージ」を支持している。しかしフロイトの予想に反して無意識の象徴を扱う分野は夢の最中は比較的不活発であった。フロイトによれば夢は無意識の象徴の現れでありこの象徴を分析すれば心の深部が解き明かせると説いた。

「夢は意味を持ちます。しかしそれはフロイトが説明するような意味ではないのです」とブラウン博士は言う。博士とその共同研究者は夢の持つ意味はその表面に現れた意味以上のもので無いと考える。すなわちタバコはタバコであると。ハルトマン氏は1930年代に実際にフロイトに会っている。彼も言っているがフロイトは確かに夢を捉えているが必ずしも彼の言う事の全てが正しいわけではない。「皆さんはフロイトが私の頭を撫ぜたと言います。私はその時2歳でフロイトは既に80歳でした」とハルトマン氏は言う。

今日フロイトがハルトマン氏にあったならそんなに優しく対応しなかったであろう。ハルトマン氏は続けて言う「フロイトは物凄く優秀な人でした。しかし私は夢が願望の固まりとは思いません」。ハルトマン氏の理論はもっと現代的で脳とは神経細胞の難解に入り組んだネットワークであり眠りの最中には覚醒時には不可能な神経細胞同士の組み合わせの点検をしてあるいはより広い連携をチェックするのではと氏は考えている。

だから芸術家が夢からインスピレーションを得るとハルトマン氏は続ける。でも経験からも研究からも夢の中には論理的なものは皆無であることが分かる。ものすごく優秀な理論家でも夢の中で計算をしているとか複雑な問題の解答を得る作業している夢を見ることは無い。夢の中では我々は理屈をこねない。もっと空想的な世界を見るとハルトマン氏は言う。

内向性と外向性の脳の働きの違い

内向性と外向性の脳の働きの違い
Healthyplace.com 1999年3月29日


アイオア大学の研究によると内向的な人と外向的な人の脳は働く部位に違いがある

アイオア州アイオア市・・・アイオア大学の研究によると恥ずかしがりと外向的な人の違いは全て脳の機能の違いによるものらしい。脳の血流と性格の違いを研究しているチームによると内向性と外向性の違いは脳の活動の違いであるとの確証を得ている。

アイオア大学の心理学助教授であり研究チーム主任であるデボラ・L・ジョンソン博士によるとこの発表が最初の大脳辺縁系の視床と性格である外向性と内向性の関係を示したものである。「人の外向あるいは内向の性格を決めるのはその人の経験によるもので無く脳の構造によるものであるとのデーターを今回得ている」と博士は言う。

これまでの研究結果では外向と内向を決めるものは人の脳の個人差である事が分かっていた。しかしそれが具体的に脳の何処の部分であるかは分かっていなかった。アイオア大学の研究チームは18人の健康な人の脳をPETスキャン(陽電子放射断層撮影)を使用して測定した。PETを使うと脳全体の正確な画像が得られる。

このテストでは内向性の人では前頭葉と視床前部に活発な活動を発見した。この部分は我々が内部思考をする時即ち記憶を思い出そうとする時や問題解決、計画を練るときに活発になる部分である。それに対して外向的な人は帯状回の前部、側頭葉、視床の後部が活発に動いていた。この分野は感覚を処理する分野と考えられていて聞いたり見たり運転をしたりする時に活動する部分である。

物を判断したり感覚の処理をしたりする時の違いが外向と内向の違いを形作っている。内向的な人は物静かであり心の内部に焦点を合わせ引きこもる傾向がある。それに対して外向的な人は人と一緒にいて社交が好きであり刺激を求める。

「内向性の人は自分の内部に刺激を求めるのに対して外向的な人は外からそれを求めようとします。過度の内向性や外向性は一つの連続体の両側端に当たり一般の人はその中間の何処かに位置します」とジョンソン博士は言う。

「この実験の示す所は個人の性向である内向、外向の問題は善悪ではない。個人の性格の違いは脳の生物学的違いによると言う事です」とジョンソン博士は付け加える。

被験者になった10人の男性と8人の女性は最初に内向か外向かを判定するために性格テストを受けた。その後目をつぶってPETスキャン装置の下に横になり検査を受けた。

「横になって静かにしていると脳は自由な活動を開始します。ある脳の部分が活発に動くと血流量が増してPETスキャンにそれが示されます」とジョンソン氏は説明する。

この発表はAmerican Journal of Psychiatryの2月号に記載されたものです。

性格遺伝子・・・・ タイム誌 1998年4月27日号から

性格遺伝子・・・・ タイム誌 1998年4月27日号から

  • DNAは人間の行動形態を決めるか。最先端の研究者の行動がそれを示す。  
                                            
分子生物学者のディーン ハマーは青い目と薄茶色々の髪の毛を持ち、おしゃべり喜劇のばからしさを理解するセンスを持っている。たばこを嗜みアメリカ国立保健衛生研究所の乱雑な研究室で何時間も過ごす。自由時間には崖をよじ登り、急勾配の雪崩が起きそうなスロープをスキーで滑降する。彼はまた明らかにに事実上の同性愛者でもある。

ハマーをこの性格にするのは何か。奇癖、弱点、才能、特徴などその人の人格を説明するものは何なのか。ハマーはその様な質問を単にするのに満足しないが、しかしその質問には答えようとしている。分子精神医学のパイオニアであるハマーは今性格の核心を決定する遺伝子の役割を研究している。驚いた事にホモ、スリル、煙草喫煙に関する彼の遺伝子研究は彼自身の遺伝子傾向を示す事になった。

彼の研究成果はその殆どが科学雑誌に発表されたものだが、読みやすく手に入り易い形の本になりそのタイトルは「遺伝子と共に生きる」です。その最初の部分でハマーと共同執筆者であるピーター・コープランドは「あんたのパーソナリティーの一部は丁度貴方の足のサイズや鼻の形を選べ無いほどに選択は難しい」と言っています。

最近まで行動を決定する遺伝子の研究は心理学者と心理療法家によって主に双子の研究でなされていました。それは一卵性双生児における遺伝子の重要な役割の研究です。例えばノースウェスターン大学のマイケルベイリーは一卵性双生児の一方がホモであるともう一方の方も50%の確立でホモになる事を示している有名な事例があります。
7年前にハマーはこの双子の研究で残していった遺伝子を取り上げ、そのDNAの紐の内、気分とかセックス性向に影響を与える部分の研究を開始しました。

その後ハマーは基礎研究から行動遺伝子学に変わった。ハーバード大で博士号の学位を取得後、メタロチオネインの生化学を10年以上も研究した。メタロチオネインとは蛋白質で銅とか亜鉛などの重金属を体内で細胞が代謝する時に使用される物質である。その頃彼は40才を過ぎる時だが、急にメタロチオネインについては興味を無くした。彼の言葉によれば「正直言ってもう飽きた、何か新しいものをやってみたい」と述懐している。研究対象の変更にはダーウィンの著書「人間の系図と性に関する淘汰」が多く寄与している。

「私は読み進めてダーウィンが人間の振る舞いが部分的に遺伝で規定されているとダーウィン自身確信しているのを見て感激しました。その頃は遺伝子どころかDNAも発見されていない頃ですからね」。 同性愛を研究するのは丁度格好の時で、多くの科学者が感情的にも政治的にも非難された同性愛の研究を避けていたからです。肩をすくめながらハマーは「私は同性愛ですよ、でもそれが主な動機ではないです。それよりむしろ知的好奇心でしょう。それにその頃誰もこのような研究をしませんでしたから。」

このハマーの研究結果は1993年に雑誌「科学」に掲載されたのですが、これが大旋風を巻き起こし、今でもそれが止んでいません。ハマーとその研究グループによれば男性同性愛はXクロモソムの先端にあるDNAの1つながりに関係している。このクロモソムは母親から受け継ぐものである。3年後の1996年ハマーとそのアメリカ国立保健衛生研究所の協力者はイスラエルの研究者が発表したクロモサム11上の遺伝子が心理学者が言うところの「物珍しさを追う」性格上の特性と関連すると言う報告を支持した。その同じ年にハマーの研究室はクロモソム17にある遺伝子が不安を調節する役割を持っている事を突き止めた。

ハマーは体の特性を規定する遺伝子と違ってこれらの遺伝子は同性愛者になったり、ロッククライマーのような向こう見ずになったり、絶えず不安を感じる心配性にさせるものではないと強調する。性格の生物学はそれほど簡単でない。それよりむしろこれらの遺伝子は目に見えない形で心に働きかけ各人が同じ経験をしても驚くほどの違った反応を示すとハマーは言う。

これらの発見で面白い事は発見された事実が他の研究者によってはっきりと再現されない事だと、他の専門家が警告しています。何故だろう、1つの可能性としてハマーの研究によっても遺伝子と個人の性格とを結び付ける事実は存在しないのかも知れない。
しかし更に返答に困る問題がある、例えばトマトの香りをつける遺伝子を考えてみたまえと国立精神衛生研究所のデニスマーフィーは言う。その酢っぱ味と言う単純な問題を考えてみても30からの遺伝子が共同作業で作り出している。その上で彼は気質や精神疾患に罹り易い体質には多くの遺伝子が絡んでいて、個々の遺伝子は全体効果の一部を担当しているに過ぎないと推測する。

個性を作り上げる遺伝子を探す作業は大変難しい。DNAその物は僅か4つの化学物質、アデニン、グアニン、シトシン、チミンで出来ているが1つの人間の遺伝子を作るのに100万個の組み合わせから成り立つ。これらの遺伝子は人それぞれで違っているがそれはこの化学物質文字で1000個に1個の割合である。このほんの小さな違いこそハマーと同僚が今見極めようとしている課題である。
その中でも特に脳内化学物質であるドーパミン、セロトニンの働きを調節する変種が特に興味がある部分である。この2種類の物質は気分を調節する作用がある事は良く知られています。所謂珍奇を求める遺伝子は神経細胞がドーパミンを如何に効率よく吸収するかに関わる遺伝子と考えられています。所謂不安遺伝子はセロトニンの作用に関わる遺伝子ではないかと考えられています。

何故こういう事が起きるのか、結局ハマーとコープランドはその本で述べていますが、「遺伝子とは恥ずかしがりとか外向的とか幸せとか悲しいとかを決定する物でなく、遺伝子以上に大きな化学物質の構造を設計作成する物質である。」遺伝子は腎臓とか皮膚とか脳の蛋白質を生産する司令を出している物質なのです。であるからハマーは次の様に推測します。
珍奇を求める遺伝子の一部はドーパミンを吸収するのに能率の悪い蛋白質を生産する。ドーパミンと言う化学物質は何か激しい経験をした時に喜びの感覚を作り上げるものだから、この遺伝子を持つ人はスリルを求めてドーパミンの生産を活発にしようとしているかも知れない。

ハマーも他の批評家も言うようにそれでも遺伝子その物は脳内化学反応を調節しない。最終的には環境が遺伝子をどう作用するかを決定する。環境が違えばハマーでさえ科学者になるより高校途中退学者になったかも知れない。なぜなら彼はニュージャージー・モントクレアーにある裕福な家庭に育ったがとても模範的な子供ではなかった。笑いながら彼は言うのだが「私は今ごろ注意不全症でリタリンを処方されていたかも知れない」。高校の終わり頃彼は有機化学と出会う。そして手におえない若者から第一級の生徒になる。ハマーは更に言う。我々は気質を持って生まれて来るが、経験を通して学ぶ事が出来るのはこの表現の難しい人格と言う物が気質をコントロールするからである。

次の10年以内に人の振る舞いを直接的にあるいは間接的に決定する遺伝子が数千も発見されるだろうとハマーは推測する。
彼の研究室の外の廊下にあるフリーザーを覗き込むとそこには急激に増えつつあるプラスチックチューブがある。その中には1760人以上の志願者から集めたDNAサンプルが入っている。志願者のなかには同性愛の男性とその兄弟であるが正常な人、新奇を求める人、それを避ける人の色々の組み合わせ、恥ずかしがりの子供、段々増える煙草喫煙者のサンプル等。

ハマーは職業上自分自身への興味を彼の研究から遠ざけるが、彼の研究への興味が自分自身を発見と言うところから来ているのは間違い無い。間も無く彼の研究室は禁煙を出来る人と出来ない人に関わる遺伝子の研究成果を発表する。彼のシャツのポケットからはみ出している煙草の箱を見ると彼は間違った遺伝子を引いてしまったのだらう。彼は禁煙を試みたが失敗していると白状している。「もし私が禁煙すればそれは私の個性による物である」、しかし出来なければそれは言うまでもなく遺伝子による物である。

感情脳

感情脳

恐怖の条件付けから学んだ事、アメリカ精神医療局
 
メリル リン ヘンドリックス

                                            

例えば貴方が藪の中を歩いているとしよう。何かとぐろを巻いたようなものを貴方の行く先に発見した。その瞬間貴方がそれが蛇であると判断する前に貴方の脳は恐怖の反応を示す。ニューヨーク大学の神経科学者であるジョセフ レドックス博士によれば恐怖は古典的な感情で古来沢山の心の病と関わり合って来た。博士と他の研究者達の1997年5月にアメリカ健康局で行われた第24回マチルダソロウィー講演での発表によれば恐怖反応は進化の過程で取りこまれたもので多分人間も他の脊椎動物も同じ過程を踏んだであろうと述べている。

レドックス博士と他の研究者によれば恐怖反応と関係がある脳の回路の発見に進歩があった。研究者の焦点は今小脳扁桃(脳の内部深くにあるアーモンドの形をした部位)に当てられている。この小脳扁桃の一部である側核と言われる部位が恐怖条件付けに関与していると考えるようになった。恐怖条件付けとは動物を使って主にねずみですが危害を与えない比較的温和な音を聞かせて恐怖を発生させる実験です。条件付けは音と共に動物の足元に軽い電気刺激を与えて行う。数回の経験の後に動物は音を聞いただけで防御反応を示すようになる。反応には動きがぴたっと止まる反応と血圧上昇を含みます。

細胞染色の方法で小脳扁桃の神経細胞と脳の他の組織との繋がりを調べると恐怖の刺激は神経の2系統の経路を喚起する事が分かった。一方の経路はハイロードと呼ばれて神経刺激を耳から視床に運ぶ。視床とは小脳扁桃のそばにある組織で入ってくる知覚刺激の中継地点の役割をする。視床から神経刺激は知覚皮質の音声認識部分に送られる。この皮質部分は送られてくる刺激に高度の分析を加えて適切なシグナルを小脳扁桃に送りだす。2者を比べれば視床から直接小脳扁桃に神経刺激を送るほうが断然速い。これをロウロードと呼ぶのであるがこれは刺激の詳しい情報は運べないがスピードにおいて有利である。生物にとってはスピードは存在条件に欠かせない。

小脳扁桃が恐怖の刺激を受け取ると次に述べる防御反応を起すシグナルを発する。すなわち速い心拍、血圧上昇のような自動喚起、痛覚抑制、必要以上の驚きの姿勢、ストレスホルモンの分泌等。意識を持つ動物ではこれらの身体的変化は恐怖の感情を伴う。レドックス博士によればもし正確で無くてもこの迅速な危険を察知する能力は生存において大切な手段である。「だから蛇を棒に間違えるより棒を蛇に間違える方が余ほど良い」と彼は語る。

細胞と生理学による研究で小脳扁桃の側核は恐怖の条件付けを行うのに必要な全てが揃っているのが分かって来た。沢山ある神経細胞の延長部分、これらは視床や小脳扁桃の他の部分、皮質のあらゆる部分に結合している。次に刺激に対するすばやい反応、刺激を受けつけるときの敷居(これにより必要でない刺激は除かれる)、周波数選別(ねずみの危険信号の高さに反応する)等。

他の小脳扁桃部分すなわち中央核は危険に遭遇した時に逃げるか戦うかのシグナルを出す役割をする。小脳扁桃の多くの部分は内部神経細胞結合でお互いに連絡しあっている。一度恐怖条件付けが起きるとこれら内部の回路が恐怖刺激に永続的に反応しようとする。だから蛇とか高度恐怖症の人は行動療法を受けて良くなるが強いストレスを受けたときに症状は戻る。レドックス博士によれば視床から小脳扁桃へあるいは知覚皮質への通路は正常化されても小脳扁桃内の内部回路の異常はそのままであると。

小脳扁桃から前頭葉前部皮質(この部分は最も計画と推理に関わる組織)につながる神経細胞回路は脳の他の部分へ行くより余ほど沢山存在している。だから我々は恐怖を理性でコントロールするのが難しいと博士は述べている。これらの発見は不安症で悩む人の治療する上で重要な手がかりを与えるであろう。ねずみで発見したと同じ事が最近の磁気共鳴イメージスキャンで生きている人間の脳を直接見て分かり始めている。すなわち小脳扁桃が恐怖条件付けの中核組織である。この恐怖条件付けが不安症であるパニック障害や恐怖症やPTSDで重要な役割をしていると思われる。小脳扁桃内の記憶を消すのが難しいのなら療法としては皮質の小脳扁桃へのコントロールを更に増すか、小脳扁桃から出るシグナルを皮質でコントロールするかであると博士は語る。

レドックス氏は恐怖条件付けと不安発生時に多次元記憶系がどうお互いに働くのかを理解する為に行動と神経科学の研究が欠かせないと説く。今やかつてなく不安の秘密を解き明かす時になった。何故ならより多くの科学者が不安を研究しているからである。もう直ぐ不安と感情脳の産物である太古の生存手段を解き明かすであろう。

脳内配線の組替え

脳内配線の組替え

ニューズウィーク誌1999年12月25日号 

神経柔軟性が心の変化を可能にさせる
 
シャロン・ベグリー

コンピュータースクリーン上で漫画の司会が元気良く「皆さん、良い子の皆さん、今日はようこそいらっしゃいました。サーカス連続ゲームを楽しみましょう」と言う。このCDゲームは一見教育を目的にした普通のCDに見えますが「皆さんようこそ」の言葉を通過した瞬間から変な音にはっきりと変わる。このゲームに参加しているお子さんは4歳から14歳までの普通のお子さんですが、「だ」とか「か」とかの短い音の識別が難しい。

彼等は文字と発音の関連がつかみ難いのでそれゆえに読む学習に困難を覚える。だからコンピューターが熊手(rake)を指で指しなさいと言いますと認識が難しいRの音を少し長くコンピューターが発声します。その時は湖(lake)の絵も同時に現れて子供たちに認識を迫ります。あるいはコンピューターが空飛ぶ豚の上でカーソルを放しなさいといいます。その時豚のPigの発音のGの部分はKを含む他の言葉で邪魔されます。コンピューターはその瞬間に問題の発音を幾分伸ばして認識させようとします。例えばDayとBayの発音の違いは僅か0.003秒ですがそれを数倍の長さで発音します。この簡単なやり方で従来のお決まりのCDより革命的効果が得られます。要するに脳内の配線を変えたのです。

1989年にブッシュ大統領が1990年代は脳研究の10年であると言う宣言に署名した。脳神経科学者達はこの前宣伝の期待に良く答えた。90年代は脳映像技術を使って顔の認識をつかさどる部分やテトリスを遊ぶ時の関連脳部分の発見に努めた。科学者達はある種の精神病やアルツハイマー病あるいはパーキンソン病との遺伝子の関係を突き止めた。記憶の問題には細胞分子の変化が絡んでいる事を発見した。

この多くの発見の中でもある種の発見が教科書を書き換えている。3歳児以上の脳は今まで考えられたような堅い構造でなく従順で柔軟な組織であると言う新しい概念である。「1950年代以来学会の常識では生まれて以来最初の数年で大脳皮質が完成され、その後は大きな変化は起きないであった」とサンフランシスコカリフォルニア大学神経生物学者のマイケル・メルズニック博士は言う。しかし多くの発見によって脳はその後も継続的に変化し続けるのが分かって来た。これは脳の柔軟性と呼ばれる。その意味は我々は何を学習するかによって脳を変える事が出来る事を意味している。

脳の想像:科学者も2000年を前にして夢を追い始めている。我々は新しい世紀には脳の柔軟性を利用して目的を達成出きるであろう。即ちどのような情報インプットが脳を目的に添った方向に変化させるか分かるようになるであろう。特別の脳のトレーニングによって脳内のもつれた回路を修正して抑鬱を解消して学習困難を治し卒中患者のリハビリをしてアルツハイマーの症状の発展を遅らせて人種主義を起す脳内配線を解除させる。科学者は固まった脳に新しい訓練を吹き込むやり方で驚くべき可能性が開けると予測し始めている。「一度脳の柔軟性を学べば人に望ましい方向に脳を変化させる事が出来る」とバンデルビルト大学のジョンカース氏が言う。

脳科学が進歩すればより有効な学習が期待できる。教育者は皆脳の変化のメカニズムを理解しようとしないし分かってない。この脳の変化があるから演繹論理学があるのに。間違えてならないのは論理学が出来る脳はそれが出来ない脳と肉体的に違うと言う事です。タラル氏とメルツエニック氏は「ジー」と「キー」の発音や「ジップ」と「シップ」発音の差を理解出来ない脳は出来る脳と構造的に違うと考える。

最初に取り上げたCDプログラムはScientific Learning Corp社が開発したものだが、脳を変化させて光の速さ程の瞬間的な音の違いを認識させようとするものである。約500校がこのプログラムを買い25,000人の生徒が一日100分、一週間に5日練習をしている。6-8週間の後には90%の生徒が読書能力で一年半から二年の進歩が見られたとタラル氏は言う。

彼等は脳の柔軟性を他の学習に活用させたいと考えている。「脳内での文字と音声との関連を改善したのだから数学能力の背後にある重要なものを発見出来ると考えているのです」とメルツエニック氏は言う。「最終的にはこの戦略が脳科学を基本とした教育に道を開くでしょう。10年から15年の内にこの方式は何処でも行われるようになりどこの学校でも脳の柔軟性を基本とした教育を生徒にするようになるでしょう」

学習は単に教育だけに留まらない。脳の柔軟性はスポーツコーチの重要な武器になるであろう。極めて正確で型どおりの動作たとえばサッカーボールのドリブル、ゴルフボールの直線200ヤード打ちなどは脳内のその為に出来た回路からの命令で行われるであろう。アメリカ健康研究所のレスリー・ユンガーライダー氏が率いる科学者グループが被試験者に難しい順番で指を叩く訓練をしている時の被験者の脳のスキャンを見て驚いた。何週間も練習した時は脳の運動皮質の大きな部分が練習しないで指を叩いた時より活性化したのである

これは大人の脳では経験が大きな意味を持つことを示唆している。複雑な動作を可能にする進歩である。即ち脳内神経回路が一連の動きを実行する。例えばピアノ奏者が複雑な指の動きで演奏するように。もし神経科学者が読書問題の解決で示したように複雑な動きを可能足らしめる脳内回路を作成できれば今までの行き当たりばったりの教育を改善してもっと効果的な神経科学を基本とした技術を開発できるであろう。

アメリカの読書困難な児童がベイとデイの区別が難しいように日本の人はRaとLaの区別が出来ない。(しかし新しく生まれた児童は出来る。)理由は日本ではこの区別をする必要が無いからである。区別が必要な国に生まれた者は如何して自分が区別しているのか分からない。しかし脳の柔軟性はこの不可逆性を変える事が出来る。ピッツバーグ大学のジェイムズマックリーランド氏は日本人を被験者にして二つの言葉、Road,Loadを繰り返し繰り返し順序をバラバラに聞かせた。被験者は言葉を聞いた後にどちらの言葉を聞いたかコンピューターのキーボードを使って示す。この結果日本人のRとLの認識力は驚異的に向上した。

彼は単に違った言語の効果的な学習に興味があるばかりで無く更に大きな夢を持っている。新しく出来あがる脳内の回路は意識をバイパスするので人種差別的偏見に打ち勝てるのではと考えている。多分ある人にはアジア人を見るとある種の電気信号が発生して関連の神経単位を刺激して恐怖とか嫌悪を起すかも知れない。「人に不安を起こさせる場面設定をするのです。それからその場面において脳に別の反応を引き起こすように訓練するのです」とマックリーランド氏は言う。

脳のどの部分が何の働きをしているか分からない内は教科書は書けない。脳の柔軟性とはしばしば変わる区分地図みたいなものである。ある脳の部分は小指の感覚に対応していると生まれたときから指定されている。しかし経験がこの区分に変化を与える。点字を習うと指先に対応する脳皮質の分野を拡張する。弦楽器の奏者では演奏する指と腕からの情報入力の担当皮質分野が大きい。これがたまに障害をもたらす。激しいピアノの練習の後に違った指からの刺激を一箇所の皮質で処理してしまう。本来は少しずつ違った皮質が受け持つのだが。結果は焦点筋肉失調と言われて例えば患者は人差し指を上げる時に一緒に中指を上げるか沿うように動かさなければならない。

「あまり激しい練習をするから、一つの指からの刺激を他の指の刺激といっしょくたにする間違いを脳がしている」とカリフォルニア大学のナンシーバイル氏は言う。彼女は脳の柔軟性を利用して脳の再訓練をしようとしている。例えば焦点筋肉失調の患者には人差し指で絵を描かせ次ぎに中指で同じ訓練をする。今度は鍵とかボタンを使って同じ訓練をする。要するに別々の指からの情報を別個に処理する訓練をするわけである。皮質の再訓練は最近言われている難病にも応用される可能性がある。「アルツハイマーでは障害を受けた脳の組織を迂回する回路を作れば症状の発症を遅延出きるかも知れない」とカアス氏は言う。要するに電気屋さんが事故を起した部分の回路を一時中断して迂回路を設定する作業の大脳版である。

脳の柔軟性は卒中患者にも応用出来そうである。心理学者であるアラバマ大学のエドワードトーブ氏は説明する。例えば卒中患者の動かせる腕を何かで固定すると患者は動かない方の手を甘やかさないで使うようになる。トーブ氏はこの療法を強制運動療法と呼ぶがこの療法により患者に障害のある手で物を掴ませたり杭を穴に入れたりする作業をさせる。この結果脳の別の部分が障害で駄目になった部分の代わりを始める。このやり方は魔法では無い。ただ動かなくなった腕を繰り返し使う事によって皮質の再構築を試みるだけである。「影響を受けた手を動かす脳の分野は二倍の大きさになった。この強制療法により卒中患者は機能をその後21年間に渡って維持出来た。決心と堅い意思で人は脳の機能を大きく変える事が出来る」とトーブ氏は言う。

脳の柔軟性の考えにも限界が勿論ある。知恵遅れの子供を元に戻すのは多分無理であろう。運動神経が鈍い人をマイケルジョーダンの様には出来ないであろう。しかし脳にもこのような柔軟性があることは数年前には考えられなかった。神経科学者は今や不可能を可能にする瀬戸際まで来た。それはどうやって脳の再創造をして目的を達成できるかである。

不安の科学

不安の科学
何故我々は悩みっぱなしになるのであろうか。理由は我々の脳の構造が不安を起こしやすくできているからである。しかもショートする事もある。
By Christine Gorman (2002年6月2日タイム誌インターネット版より)
 
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刺激に対する脳各部の反応を説明する画像

刺激に対する脳各部の反応を説明する画像
2002年8月19日タイム誌インターネット版より
Amygdala(扁桃体)
脳の感情中枢。恐怖反応を起こす基点。扁桃体を通過した情報は感情反応を引き起こす。

Auditory Stimuli(聴覚刺激)
視覚、聴覚からのシグナルは最初に視床に送られる。ここでは情報をフィルターにかけ、扁桃体に直接流すか、関係する皮質に流すか決定する。

Bed nucleus of the stria terminalis(分界条)
瞬間的不安反応を起こす扁桃体と違い、ここでは不安反応を持続させる。従って神経症のような長期間の不安を作り出す。

Cortex(大脳皮質)
視覚、聴覚情報の大まかな判断をする場所。何を見ているか、何を聞いているか我々はここで判断する。皮質の一部である前頭前野皮質は危険が去った後に警戒解除のシグナルを出す重要な役割をすると考えられている。

Hippocampus(海馬)
記憶中枢。感覚器から来る生加工の情報を記憶する。扁桃体を通過してここに来る情報には感情処理が施されている。

Locus Ceruleus(青斑)
扁桃体から情報を受け取り古典的不安反応を発生させる。例えば心悸亢進、血圧上昇、発汗、瞳孔拡大等。

Olfactory Stimuli(嗅覚)
嗅覚、触覚のシグナルは視床をバイパスして直接扁桃体に送られる。だから匂いは視覚、聴覚より強い記憶や感情を呼び起こす。

Tactile Stimuli(触覚)
説明は上に同じ

Thalamus(視床)
視覚、聴覚の処理センター。映像は大きさ、形、色に分けられ、音声は音量、耳障りの良し悪しで分けられて大脳皮質の関係部分に送られる。

Visual Stimuli(視覚)
視覚、聴覚からのシグナルは最初に視床に送られる。ここでは情報をフィルターにかけ、扁桃体に直接流すか、他の関連皮質に流すか決定する。


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脳が不安、恐怖を感じた時の情報伝達の仕組み

脳が不安、恐怖を感じた時の情報伝達の仕組み
2002年8月17日タイム誌インターネット版より

 
我々が危険(例えば大きな音、驚くような光景、鳥肌が立つ感覚)を感知すると情報は二手に分かれて脳内を伝播する。

 短絡回路
我々の脳は驚くと自動的に扁桃体に直接情報を伝える短絡回路を形成する。扁桃体が興奮すると脳の各部に警戒信号を出す。その結果、古典的不安反応(手の平の発汗、心悸亢進、血圧上昇、アドレナリンの急激分泌)が起きる。これらの反応は我々が何に恐怖したのか理由が分かる前に起きる。

 意識回路
短絡回路の急激な不安反応が起きた後に意識脳が活動を開始する。
情報のある部分は扁桃体に直接行かないで、比較的長い回路を通過する。まず視床(感覚刺激処理中枢)に行き次ぎに脳皮質に行く。皮質は入ってくるデータを分析し、恐怖すべきかどうか判断する。恐怖すべきと判断すると扁桃体にシグナルを鳴らし、扁桃体は身体に警戒信号を送り、体は警戒態勢に入る。

英語解説:
Amygdala
(扁桃体)、Cerebellum(小脳)、Cortex(皮質)、Hypothalamus(視床下部)、
Prefrontal Cortex(前頭前野皮質)、 Spinal Cord(脊髄)、 Thalamus(視床)

人間の感情とは

人間の感情とは

レドックス博士は脳科学から感情を冷静に分析する

By CLAUDIA DREIFUS

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恐怖をコントロールする脳の小さな器官

恐怖をコントロールする脳の小さな器官

シアトルタイムズ 健康科学欄から
By Eran Karmon
Seattle Times staff reporter

 
我々の生活の回りには恐怖を起こすものがたくさんある。アメリカでは1年に550人の人が家庭内感電事故で命を失い、蛇に噛まれて死ぬ人は僅か年間15人程である。しかし蛇が動く時の音はヘアードライアーの音より恐ろしい。

この激しい恐怖が何故起きるかは我々の進化の過程を研究し、脳の内部にある1対のアーモンド状の器官をつぶさに調べると納得する。

恐怖とは一種の先祖帰り現象である。恐怖の発生には数億年前に形成されたこの脳の小さな1対の器官が重要な役割をしている。我々は既に絶滅した我々の祖先の時代とは違った環境に生きているが、恐怖はその当時と同じように襲って来る。恐怖は光のように一瞬に起き、腹部を殴るような激しい衝撃を与える。この先祖帰りの恐怖反応は現代では心理的にも肉体的にも問題を時々起こす。

「我々は進化して来たわけであるが、だからこそ生まれながらに恐怖する対象が存在する。銃、ナイフ、オートバイ恐怖症と言うのは殆ど存在しないが、蛇とか火あるいは高所の恐怖症は良くあります」とイリノイ州エバンストンにある北西大学の心理学教授のスーザン・ミネカ氏は言う。

生まれがらにして恐怖しやすい恐怖発生対象を心理学者は準備刺激と言う。この準備刺激には人間以外の動物も反応する。ミネカ氏はサルを例に出して、サルも蛇に恐怖反応を示すと言う。檻の中で育てられ、蛇を見た事が無いサルも、ビデオでサルが怖がっている様子とゴム製の蛇の写真を交互に見せると恐怖反応を示すようになると言う。

このサルに花とかウサギの映像を見せても、恐怖反応を示すようにはならないと言う。進化によって作られた恐怖発生対象は他にもある。

「飛行機に乗るのは自転車以上に安全でしょう。しかし我々の遠い昔に形成された恐怖により、閉所と高い場所は本能的に恐怖を起こしやすい。だから飛行機搭乗にも恐怖するのでしょう」とミシガン州のホランドにある希望大学心理学教授のデイビッド・マイヤー氏は言う。

古典的恐怖は脳内にあるアーモンド状をした1対の器官(扁桃体)で発生する。各々の扁桃体はこめかみから約4cm弱、奥に入った所に位置している。視覚、嗅覚、聴覚、触覚等のシグナルは感覚器から入り扁桃体に送られる。扁桃体から更に脳の他の部分に送られて、ここからは不随意反応である心拍を早め瞳孔を拡大し、血液を足の筋肉に送りこむシグナルが体の各部に送られる。この時に皮膚からは血液は引き、汗腺が活発に活動する。だから我々が恐怖を感じた時に顔面が蒼白となり、冷や汗が垂れる。

シグナルは腎臓の直ぐ上にある副腎に送られアドレナリンとコルチゾルと呼ばれる2種類のホルモンが分泌される。アドレナリンとコルチゾル分泌は恐怖反応の主要部分である。この2つの化学物質は進化の上で人間より大変離れている魚にも存在し、恐怖反応を担っている。 「コルチゾルとアドレナリンは恐怖を引き起こした時、状況の記憶を強化する役割をします。それゆえに将来同じ様な状況が発生した時に対処出来るわけです」とニューヨーク市のロックフェラー大学の神経内分泌学教授であるブルース・マックイーエン氏は言う。

コルチゾルと言うホルモンは強力な化学物質である。日常の記憶を司る脳に対しても影響を与える。この部分は海馬と呼ばれる器官であり、ここに障害があると過去を全て忘れる。

意識的学習記憶あるいは恐怖の記憶は海馬に記憶される。海馬に障害があるが扁桃体は正常な人に恐怖を誘う写真を見せると自動的恐怖反応をしめす。即ち心悸亢進、発汗であるが、その後、その人にこの写真に驚いたのですかと質問するといや違うと言う。

反対に海馬は正常であるが扁桃体に障害がある人に同じ実験をすると恐怖を感じるが恐怖反応を示さない。

「このシステムは危険からいち早く身を避けるシステムで合理性を追及するように作られていません。良い点は効率が良くしかも早く学習出来る事。しかし都合の悪い学習してしまうと、中々恐怖を消す事が出来ないのです」とニューヨーク大学の神経科学科教授であるジョセフ・レドックス氏は言う。

説明を欲しがる脳

説明を欲しがる脳

By ANNA FELS, M.D.
 

ある日の午後、私の精神科面接室で2人の鬱病患者を続けて診察をした。2人とも鬱病特有な午前午後で変化する症状を訴えていた。この症状変化は毎日起きるホルモンと神経伝達物質の内分泌変化の為と現在では説明されている。

しかし患者にして見るとそうは考えない。一人の患者は日中は気分が良くなかったが、それは仕事のプレッシャーからであり、夕方は仕事から解放されリラックスしたから気分が良くなったと説明した。もう1人の患者は音楽家で日中は1人でいたから鬱状態であったが夕方演奏が始まる頃には人に囲まれて気分が元に戻ったと言った。

この種の患者による理由付け説明は精神医療セラピーで何時もお目にかかる光景であり、”混乱の後説明”と言う。患者は精神症状を具体的生活の一部に関連付ける傾向がある。

感情変化を日常生活の何かと結びつけようとする傾向は何も精神科の患者ばかりではない。神経生理学では全く違う条件でも同じ現象が発生している。ある人の脳を調べている時に感情を司る部分を刺激した所、被験者は電気刺激で感情が発生したにも関わらず、そうは取らず具体的理由を挙げた。

例えば笑いを起こす場所を刺激すると被験者は医者が余りにも真剣そうにやっているから笑ったと説明するかも知れないし、あるいは壁に掛かっている絵がおかしいからだと言うでしょう。

脳神経学者も同じ傾向を発見している。例えば希なケースであるが、脳の左半球と右半球の連絡が切断されているケースで言語を司る左半球が右半球で起きている思考を説明をしようと努力をしているのを観察している。

明かに我々の脳は説明のつかない感情の動きを嫌い、直ぐ何かで説明しないといられない。例えそれが事実とはかなり違っていても躊躇をしない。このプレッシャーがセラピストにとっても厄介な問題だ。結局セラピストも説明を追っている同じ立場であるからだ。

ジークムント・フロイトは自身優れた臨床医であり優れた精神疾患の観察者でもあったが、感情の説明を作り上げる能力においては世界一であった。道徳の発達から足のフェティシズムまでありとあらゆる心理現象を、手のこんだ幼児体験説で説明した。後を継ぐ精神分析の理論家はあらゆる心の病をもっともらしい物語を作って説明した。

しかし精神医療にこそ説明を求めて止まない体質があり、又それが求められている。セラピーとはそもそも説明のつかない問題を扱わなくてはならない運命にある。症状が何故起きるか説明が出来ないと患者と医師の両者に不満を生じさせる。だから何時も回答を捻出する誘惑が存在する。

セラピーでは詩作と同じように不充分な結論で終わらせようとすると破綻が待ちうけている。この場合、患者が少し気分が持ちなおした後に患者、セラピスト共にやりようが無く立ち往生してしまう。結局病状は一向に良くならない。

それでも説明はセラピーに欠かせない。セラピーは別に新しい説明を作り出しているわけではない。むしろ古い心の傷を探っているのである。子供時分を振り返り、辛い経験、無責任な親、敵対的な兄弟、社会の受け入れ拒否等が心の病にどのような因果関係を持つか説明を試みようとする。

辛い経験が既に遠い過去になっても心の傷として残り、生活の様々な場面で問題を起こす。この心の思考癖が明かになった瞬間にセラピストは患者に神経を集中する。思考癖の発見は曖昧な場面で起きやすい。患者が難局に立った時に心は過去の説明に拠り所を見つける。

ある患者はこんな話しをしてくれた。彼の上役が部屋に入ってきて、話しがしたいと言う。しかしドアーの所に少し止まって躊躇しているようであった。患者は瞬間に何か悪い予感がした。

彼の上司は恩着せがましい笑いを浮かべてそのまま立っていた。かれは机の隅で小さくなっていた。次ぎの瞬間上司が話し始めたが、彼はもう会社を首になると覚悟していた。上司は彼を嫌っていたのである。

私はそれでどうしたと問うた。

すると患者は少し間合いを取って「上司はなんと給料を上げると言いました」と言った。

我々は笑いこけた。

睡眠時随伴症(夢遊病)

睡眠時随伴症(夢遊病)

By ERICA GOODE

ニューヨークタイムズ 健康欄から 2003年1月7日

 起きている時のジム・スミスは愛想の良い人好きのするタイプである。ミネソタ州のオセロと言う小さな町の土木関係の責任者として信頼されていて、日夜水道管の漏れや破裂のトラブル修理に追われていた。秋には友人と鹿刈りを楽しんだ。友人は彼を親愛を持ってスミティーと読んでいる。夏には彼の家族を連れて釣りに出かけた。

その釣の旅の夜に事件が発生した。まどろみながら卑猥な言葉を叫び、壁を叩き、枕を殴りつけた。時々、妻のディーの背中を殴り、髪の毛を捕まえた。ある晩には、夢の中で傷ついた鹿を苦しみから救おうとして彼女の手首に重症を負わす所であった。「全く寝た気がしなかった。夢の中で彼がわめき始めると直ぐこぶしを振りまわした」とディーは言う。

数世紀前であったら彼は悪魔払いの儀式を受けた事であろう。1960年代なら怒りを抑圧した為だとして、精神科医は精神分析を薦めていただろう。しかし過去20年間に、この睡眠時随伴症研究が大きく進歩した。睡眠時随伴症の1つにレム催眠行動障害があり、患者は夢を現実に演じる。スミス氏に起きていたのはそれであり、1987年ミネアポリスのミネソタ地域睡眠障害センターでレム催眠行動障害と診断されている。

最近の研究によると睡眠時随伴症は考えられていたより多く発生しているのが分かった。大半は治療で軽快し精神疾患とは関係がない事が分かっている。一方眠りと覚醒を定義しようとするとかなり難しい事も分かって来た。睡眠時随伴症の中でも最も研究されたレム催眠行動障害は、次第に体の病気と関連しているのが判明した。

例えば、6月に開かれたAssociated Professional Sleep Societies の年次会合では、ミネソタ睡眠障害センターの精神科医であり研究幹部でもあるカルロス・H・シェンク氏と、神経学者であり臨床部門の責任者のマーク・W・マホワルド氏が次ぎのように報告している。彼等が診断した26人のレム催眠行動障害の内17人がその後パーキンソン病を併発したと発表した。スミス氏も2001年にパーキンソン病を患っているのが分かった。メイヨークリニックはレム睡眠行動障害と神経退行病(痴呆症の一種であるびまん性Lewy小体病と多系統萎縮症)が関連しているのを突き止めた。

レム睡眠行動障害とパーキンソン病の関係が明らかになったのは、今から20年前にドナルド・ドルフと言う引退した雑貨屋さんがシェンク氏の所に来た時に始まる。彼は夢を見ながら激しく動き回る症状を訴えた。夢の中で彼はアメリカンフットボールのクォーターバックを演じて、寝室の化粧ダンスに頭から突っ込んだ事もあった。

シェンク氏は早速彼を研究室で調べた。すると彼の暴力的行動はレム睡眠の最中に起きる事が分かった。レム睡眠とは人間では睡眠の20-25%を占めていて、その最中には眼球が頻繁に動く。夢もレム睡眠の最中に現れる。彼の脳波図を調べるとレム睡眠中の脳波は起きている時のそれに近似していた。

レム睡眠の最中、脳は筋肉に運動を起こすシグナルを送る。健康な人ではレム睡眠時には他の回路から別のシグナルが出されていて、運動が実際起きないようになっている。即ち脳神経細胞から神経伝達物質が送り出され、体中の筋肉を麻痺させている。この中でも横隔膜と、耳の小さな筋肉、眼球を動かす筋肉は例外でレム睡眠時でも動く。

ドルフ氏の場合は、寝ている時レム睡眠麻痺が上手く働か無いと判明した。他にも4人の御年寄り患者が同様のレム睡眠麻痺不全が起きている事が分かった。シェンク氏は1986年、人間のレム睡眠行動障害として最初に発表した。事実、患者はレム睡眠の最中、フランスの睡眠の権威であるミッシェル・ジュベが1960年に発表した実験動物のような動きをしていた。

レム睡眠が脳の如何なる部位の活動で起きるかを特定する為に、ジュベ等は猫の脳幹にあるポンズと呼ばれる細胞を破壊した。すると破壊されたにも関わらずその猫はレム睡眠を始めた。しかし静かに寝るどころか立ちあがり、あたりを見まわして想像上の獲物を襲おうとした。

ペンシルバニア獣医大学のエイドリアン・モリスンによると、レム睡眠の最中に起きる覚醒行動はポンズ細胞のどの部分が破壊されたかによると述べている。例えば、破壊が扁桃体から伸びている神経路に及ぶ場合はその猫は人間にも他の猫にも襲いかかる。

ドルフ氏及びスミス氏が示すようにレム睡眠行動障害を患う人の80%が男性であり、中年以上の年配であった。彼等は起きている時は優しい人達である。患者の多くはレム睡眠以外の睡眠時にも足をリズミカルに動かしているのが観察されている。彼等の多くが激しく動き出すかなり以前、異常に鮮明な夢を見ている。夢の中で何かに驚かされたり、攻撃されたり、スポーツに夢中になっていたりする。例えば上司が手斧を持って襲って来たとか、ライオンに追いかけられた夢である。夢から覚めて、妻を守ろうとしていたつもりが妻を殴りつけているのを発見したりする。

患者は夢の中で取った行動を全く思い出せない場合も多い。例えばスミス氏が狩りに出かけた時であるが、いきなりベッドから起きてアメリカ国家を斉唱した。一緒に寝ている友人達を驚かせたが、彼は何故夢の中でそんな事をしたか思い出す事が出来なかった。

ポンズ細胞の破壊で起きるレム睡眠行動障害は人間では発見されていないし、未だレム睡眠行動障害が後に神経退行病を引き起こすとははっきり断定されていない。しかし多くの研究から、レム睡眠行動障害が神経障害に関連しているのが分かった。例えば最近発表されたカリフォルニア大学ロスアンジェルス校のジェローム・シーガル氏の報告によると、パーキンソン病との関連を示す結果となっている。

脳の深部中央のポンズ細胞の少し上の部分は筋肉の運動を抑える重要な役割をしているとシーガル氏は言う。例えばネズミでこの部分に障害を起こすとレム睡眠の最中に人間で起きたレム睡眠行動障害と同じ筋肉運動を起こす。この部分はパーキンソン病と関連のある細胞(パーキンソン病ではこの細胞に障害が起きている)に位置的に大変近くそれに接続もしている。

「パーキンソン病とレム睡眠行動障害が関連していると言う前提で言えば、パーキンソン病で起きる神経の破壊が筋肉の運動を抑制している部分にまで広がって障害を起こしているか、あるいはその逆もあり得るだろう」とシーガル氏は言う。

この種の睡眠障害患者の脳スキャンを取るとパーキンソン病の発病を示す兆候を示している。2000年にミューニッヒ大学のイロンカ・アイゼンセール氏はレム睡眠行動障害患者にパーキンソン病の徴候を発見している。レム睡眠行動障害の患者の脳スキャンを取ると、他の神経関連病をしめしてはいないのにストリエイタム(脳中央のパーキンソン病を起こす部分)で神経伝達物質であるドーパミンを搬送する酵素の減少が見られた。

最近ではプロザック、ゾロフト等のSSRIと呼ばれる抗鬱剤がレム睡眠行動障害に似た現象を起こしているのが報告されている。1992年、ミネソタの睡眠障害クリニックが鬱病と強迫行為の治療でプロザックを服用した41人の患者の内、20人が浅いノンレム睡眠中に眼球運動を起こしていた。これを専門家はプロザック眼球運動と読んでいる。ある患者ではプロザックを止めてから19ヶ月も経つのに未だこの眼球運動が止まっていない。

他の報告ではプロザックを服用している患者の中に覚醒あるいは睡眠時に筋肉の痙攣や運動が認められた。ボストンにある女性専門病院の睡眠障害センター責任者であるウィンケルマン氏は、SSRIを服用している人がレム睡眠行動障害を併発している例を数多く見ている。「数人の人がベッドから飛び起きているのを見た」とウィンケルマン氏は言う。この副作用がどれほど頻繁に起きているか、又何を意味するか今は分からない。又他の薬剤であるバルビツール酸塩や覚醒剤もレム睡眠行動障害を引き起こす可能性がある。その為専門家は医師にこれら薬剤を処方する時に注意を呼びかけている。

「薬は大変効果がある。しかし医師は薬を処方する時に患者に十分副作用も説明すべきである」とマホワルド医師は言う。一方、ある種の精神薬は睡眠障害を治すのに有力である。例えばセロクェルという薬が有効な時もあるとブーブ医師は言う。スミス氏の場合はクロナゼパムと言う精神安定剤が有効であったしスミス氏自身もその即効性を認めている。クロナゼパムはシェンク氏その他の専門家もレム睡眠行動障害に有効であると言う。

レム睡眠行動障害は暴力を伴う睡眠時随伴症であるが、夢遊病も家族をナイフで刺したり、子供に乱暴したり、3階の窓から飛び出したりする。夢遊病は覚醒が不完全であったり熟睡のノンレム睡眠状態あるいは緩慢波睡眠からの部分的覚醒状態にある時が多い。夜間性乖離性障害と呼ばれる睡眠障害では、患者は夜間ベッドから起きだし肉体的性的虐待を再演する。時には剃刀で自分を切りつけたり壁に頭を打ち付けたりする。朝起きると彼等は睡眠中の行動を何も思い出せない。

まどろみながらの暴力話しはギリシャ時代に遡る。ホーマーのオデッセイの中でオデッセイのメンバーの中で一番若いエルペナーは、泥酔の眠りから突如目を覚まして家の屋根に登り歩き回り落下して首を折っている。19世紀のスコットランド人で、1歳半の自分の息子を壁に叩きつけて殺したサイモン・フレイザーは、夢の中で野獣が子供に襲いかかって来たので助けようとしたと述べている。

近年では殺人事件で被告が睡眠を理由に挙げて無実を訴えているケースがある。カナダ人のケネス・パークの場合、夢遊病状態であったとして無実の判決を受けた。彼は1987年の5月に妻の実家に向って25kmを車で走った。その後、義理の母を殺して義理の父に瀕死の重傷を負わせた。このケースでは睡眠と覚醒の境がはっきりしない状態で犯罪が行われたのだろうとマホワルド氏は言う。

神経生理学的に脳を詳しく調べると、一般の人でも睡眠から覚めて1時間位は脳には睡眠状態が残っているらしい。この場合、脳波図は既に覚醒状態を示している。「多くの人は脳は1つの状態に統一されていると考えているが、それは正しく無い。脳内ではある部分では覚醒していて、他の部分では眠っている事がよくある」とマホワルド氏は言う。

分裂病の幻聴とは

分裂病の幻聴とは

2003年5月6日 ニューヨークタイムズ 健康欄心理学ページより

By ERICA GOODE
 最初は一人の声であった。天井から大きな男の声で「おーい、ジョーン」と友人のように呼びかけて来た。その声の持ち主をジョーンは悪魔と呼んでいるのであるが、他人の脳の細胞を盗むようにけしかけたり、彼の脳には悪性腫瘍があると言ったりした。

次第に呼びかける人数は増えてその数は50人にも及び、男性も女性もいた。彼等は全員がメガホンを当てて叫んでいるようようであった。その呼びかけは朝から晩まで続き、ある日には電話を取るとコーラスのように大勢の声で「お前は犯罪を犯した」と電話機から鳴り響いた。「正直、絶望と混乱であり恐ろしかった。この声がまとわりついて離れなかった」とジョーンは言う。

幻聴は分裂病の典型的症状である。アメリカには280万人の分裂病患者がいるが、その50-75%が幻聴を聞いている。多くの分裂病患者は長年幻聴に苦しめられていて、ジョーンの場合も1981年に分裂病と診断されている。分裂病患者には自殺がしばしば認められ、死のみがこの苦痛から逃れる手段のようにも見える。

今まで大半の精神科医は患者の幻聴の訴えを真剣に取り上げなかった。単に分裂病脳が作り出したおかしな現象であり、研究する価値が無いとして無視してきた。しかし最近は幻聴を取り上げて研究をする動きがある。研究者は幻聴を訴える患者を熱心に聞き、その脳を最新の技術でスキャンをした結果、幻聴を聞いている脳では脳の一部が活発に作動しているのが分かった。

研究結果を踏まえて低周波の電磁波を患者の脳に照射する治療技術が開始され、今までの投薬では解決しなかった幻聴の抑制に一部成功している。幻聴を更に研究して行くと、分裂病とは一体何であるかが分かるであろうと研究者は言う。その研究結果が分裂病以外の心の病にも応用される可能性がある。

「今私が行っている治療は分裂病の基本に迫るものなのです」と経頭蓋磁気刺激装置を使って研究をしているイェール大学のラルフ・ホフマン氏は言う。Archives of General Psychiatry誌の最近号に載った研究によると、、磁気照射を受けた患者と偽装置で実際には磁気照射を受けていない患者を比べた所、9日間に132分間照射したグループでは明らかな幻聴の減退効果が見られたとホフマンチームは報告している。中には約1年も幻聴を抑えるのに成功した患者もいたが、半数が12週間以内に元に戻っている。被験者は全員投薬も受けている。

幻聴は単に聞こえるだけでなく、患者を説教をし侮辱し、本人や他人を傷つけるよう扇動したりすると患者は言う。多くの場合、ストレスが強いと幻聴も更に強くなる。

オーストラリア、メルボルン市にあるビクトリア精神医学研究所のデイビッド・コポロフ氏と研究グループは分裂病を含む精神病患者200人を調査して、74%の患者で一日に1回以上の幻聴を聞くと発表している。80%の人が幻聴を極めて現実的な声として聞いている。34%が声は自分の外から聞こえたと言い、38%が自分の内からも外からも聞こえ、28%が自分の中からだけ聞こえたと答えている。

患者の中には数は少ないが、幻聴が結構役に立つし、声の調子も元気付けるものであったと言う患者もいた。しかし70%以上の人が幻聴は良くないものであったと報告している。

イェール大学のホフマン氏の報告では、幻聴が間歇的に聞こえる患者もいるし、連続して聞こえ、止むのは寝るときだけという例もあった。自殺した女性患者の場合、幻聴は絶え間なく続く精神的強姦であると表現している。

1985年に分裂病と診断されたニコール・ギルバート37歳(女性)はもう何年も本は読んでないと言う。何故なら、読もうとすると、この本はお前の事を書いていると幻聴が言うからだ。

「幻聴は、私に自分はイエスキリストであると信じさせようとした。私をうんと苦しませてから、今のは冗談だ、お前は馬鹿だ、何故こんな事を信じるのだと言って苦しめた」とギルバートは言う。

ギルバートは今は快復してカリフォルニアの精神医療施設で患者の援助活動をしている。彼女によると幻聴は真に迫っていて、友達がそれが幻聴だと言っても全く信じられなかったと言う。

陽電子放射断層写真撮影装置 (PET)や磁気共鳴撮影装置(fMRI)を使用した研究によると、聴覚の幻覚はかなり深刻なものである。幻聴を聞いている時の患者の脳を観察すると、聴覚、言語、感情、記憶のそれぞれの中枢では血液流量が増加していて、神経細胞が活発に動いているのが分かる。

「この人達は狂っているのでは無い。脳がどう反応しているかを我々に率直に伝えているに過ぎない」とコーネル大学のウェイル医学分校のデイビッド・シルバースワイグ氏は言う。だが研究結果は人により違ったデータが出ている。例えばフィリプ・マグアイアー氏(ロンドン大学教授)とホフマン氏の率いるチームではブローカ野(前頭葉の一部で言語の認識と組み立ての中枢)で活発な活動が見られたのに対して、間もなく発表されるシルバースワイグ氏とコポロフ氏の研究ではそのような結果は出なかった。更に幻聴を聞く時の患者の側頭葉と頭頂葉の動きについても研究により違うデータが出ている。

この違いを説明するのは容易でない。何故なら、この最新の機械を使っても脳の複雑な動きを捕まえるのは難しいからだ。またこれらスキャン装置を使う研究が大変なコストがかかり、研究の幅が制約されるからである。しかし出てくるデータが違うと幻覚を説明する理論も違ってくる。

分裂病は思春期と青年期に多く発病する。最近の20年ほどの広範な研究から、分裂病の脳は健康な脳とは多くの面で異なる事が分かって来た。原因としては遺伝子傾向と環境の両方が絡んでいると現在考えられている。研究者が一致するのは、分裂病患者は脳内から発せられる信号を間違って解釈しているとする考えだ。しかしどんな信号が間違って解釈されているのか、あるいは何故起きるのかは未だ分かっていない。

コポロフ氏の説明では幻聴は聴覚記憶の断片であり、それが感情と融合した形で患者に意識され、患者には外部から聞こえたと感じられる。海馬等の記憶中枢が幻覚作用の最中に活発化している事実がこの説明を支持している。

ロンドン研究所のマッグワイア氏等は別の考えを持っている。我々が思考をしている時、我々は内なる会話をしているが、この内部会話を間違って解釈するのが分裂病では無いかと説明する。この理論で行くと、分裂病患者では自分の内なる会話と他者との会話を分離するメカニズムに故障が起きている事になる。

スタンフォード大学の心理学助教授であるジュディス・フォード氏とイェール大学心理学助教授のダニエル・マサロン氏はこの障害は聴覚野で起きていて、その為に内、外の会話の分離に成功していないと見ている。彼等は分裂病グループと健康グループの聴覚野の電気信号を調べた。健康グループでは聴覚野が内なる会話を抑える動きを示したのに対して、分裂病グループではその動きが弱かった。

「我々が、例えば何かを考えている時は聴覚野の反応を抑えている。『オイ,今しゃべっているのは自分だから気にするな』と自分に対して言っている。しかし分裂病患者では健康な人がする内なる会話を制御する装置が壊れているのだろう」とフォード氏は言う。

ホフマン氏は少し違う考え方をする。脳の灰色物質の減少がブローカ野(言語の作成に関連)とウェルニッケ野(言語の認識に関連)の連絡を増幅させている為では無いかと言う。

「普通の状態では、ウェルニッケ野は遠いブローカ野からの情報を受けているが、同時に近くの脳組織からも多種の情報を受けている。しかし、分裂病患者では上部側頭葉(ウェルニッケ野が存在する)の灰色物質が健康体に比べて減少している為に、近くの脳から来る情報が消されるか、大幅に妨害されているであろう。もしそうならば、ブローカ野から来るシグナルは強くウェルニッケ野を刺激する事になる。すると内なる会話であるはずのものが、ウェルニッケ野は外部から来た会話と認識する」とホフマン氏は解説する。

「経頭蓋磁気刺激装置で分裂病患者のウェルニッケ野に電磁波を与えると幻覚が減少する場合もある。私の考えでは分裂病は単に内部会話を間違って解釈したり、聴覚記憶の異常があるだけでなく、あたかも外部から話が聞こえるような知覚異常を経験している事だと思う」とホフマン氏は言う。

ホフマン氏の研究チームはMRIスキャンを使って、患者が幻覚を経験している時の脳の状態と、電磁波で刺激した時の脳の変化を映像で調べている。研究結果がどう出ようとも、既に25%の患者ではこの経頭蓋磁気刺激装置で幻聴が抑えられている。「脳の一部をこの装置で刺激するだけで従来の薬では期待出来なかった大変な効果を示している」とホフマン氏は言う。

この装置には8の字型をした電磁コイルがあり、これを患者の頭部に当てる。電磁コイルは25セント硬貨程の大きさの磁場を発生させる。装置は高速で磁場を点滅する。すると患者の大脳皮質灰色物質中に電磁帯を発生させる。

研究者はまだ何故この装置が効果があるのか説明出来ない。恐らくニューロンの活動を抑えて、その効果が他の脳の分野に影響を与えると考えている。重度の鬱病に使われている電気ショック療法と違い、経頭蓋磁気刺激装置は患者にひきつけを起こさないし、脳の一部に選択的に照射出来る。当然記憶喪失のような深刻な副作用も無い。よくある副作用は軽い頭皮の収縮で、多少患者は不愉快を訴える。覚醒した状態で治療を受けていて、麻酔は使用しないからその負担も無い。

昨年の夏に治療を受けた一人であるジョーンは「この装置は頭を軽くたたく感じで、決して脳内に侵入するような感じではないです。治療後、幻聴は静かにはなりましたが、消えてはいません。効果は6ヶ月だけ持続しました。以前は幻聴と仲良くしようとしましたが、それは良くないと感じました。長年幻聴に振り回されて来ましたが、今後は逆に幻聴を振り回してやろうと思います」と言う。

環境か遺伝か


  環境か遺伝か

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自殺を多く出す家系の研究・・最新報告

自殺を多く出す家系の研究・・最新報告

ボストングローブ紙 インターネット版から
2003年8月4日 

By Ellen Barry, Globe Staff

 
最初は彼の母親であった。彼女はホテルで38口径のピストルで自殺した。彼の兄弟の一人は散弾銃で地下室で自殺した。彼のもう一人の兄弟は下宿で服毒自殺した。彼の一人の姉妹は寝室で自殺した。そして3年前には父が銃口を自分に向けて自殺した。アレン・ボイド・ジュニアにはボイド家の暗い歴史が付きまとっている。

ボイド自身は今まで銃口を自分に向けた事は無い。ノースカロライナに住む45歳の男性だが、明るい女性との結婚を夢見ている。しかし、自分がボイド家の一員である事も知っている。父の死後、自殺が又起きるのではないかの嫌な考えが5分置きに現れ、寝付けない事もしばしばあった。

「自殺は自分の体の中にあるようだ」と彼は言う。

専門家も、最近は自殺の原因が遺伝子にあるのではと言い始めている。自殺の家族遺伝性云々は長いこと議論されて来たが、果たしてどのように家族の一員から他の一員に自殺行為が移るのか説明出来ていない。感情の連鎖反応と言う学習行動にあるのか、一部の専門家が言うように、自殺遺伝子と言う物があるのか、はっきりしていなかった。

今週発売のアメリカ精神医学誌によると、自殺遺伝子発見への研究が開始されている。最近の考えでは、自殺を多く出す家系には単に心の病が存在するだけでなく、衝動的行動に突っ走る何かがあると見ている。

「この考えは、自殺家系は人間時限爆弾を抱えるようなものだと言うに等しく、人の理解を得るのが難しいだろう」とジョーン・ホプキンス大学精神科医であり、有名な自殺研究者でもあるレイモンド・デパウロ氏は言う。

会議で最も焦点になったのは、もし家族に危険要素を発見した場合、医者が自殺発生を予防できるかどうかであった。この研究の指導者であるデイビッド・ブレント氏の自殺研究は、青少年精神科病棟に勤務していた頃に溯る。この病棟では、誰が自殺をしようとしているかを判断するのが重要な職務であった。ある日、数人の女子来訪者を面接していて、ある一人を病棟に入院させ、もう一人の女子を家に帰した。すると女子の父は、帰すか入院させるかの判断は一体何処にあるのですか、と強く迫った。ブレント氏は正直言って回答が無かったと言う。ブレント氏は現在ピッツバーグ医科大学の精神科教授である。

「私自身にも、精神医学にも、この方面の知識が全く無い。コインを放り投げて判断するようなものだ」と氏は言う。

最近の研究では生理学の面から自殺因子に迫っている。自殺者の脳を調べた所、セロトニンの代謝誘導体のレベルが低い事が分かった。 セロトニンとは神経伝達物質であり、感情を左右する重要物質である。セロトニン不全が引き起こす自殺リスクは高く、 普通の10倍にも及ぶが、臨床の医師にはこの知識を応用する事が出来ない。何故なら、セロトニン不全であるかないかを調べるには、腰椎穿刺しなければならないからである。

研究者が共通遺伝子を求めて調べていくと、自殺が多発している家系に行き当たる。

1996年、マルゴー・ヘミングウェイが薬の飲み過ぎで死んだが、それが自殺であったと判定された。彼女の自殺は、ヘミングウェイ家4世代の内の5番目の自殺であった。最初は祖父で有名な文豪でもあるアーネスト・ヘミングウェイであり、次は父のクラレンス、その次は姉妹のアーネスト、次に兄弟のライセスターであった。

自殺家系の研究は、伝統に固守し質素な生活を送るアーミッシュの中でも行われた。マイアミ大学の研究チームは、20世紀にアーミッシュ部落で起きた自殺の半分(僅か26人)が2つの家族とその親戚で起きていたのを発見している。その内の73%が4つの家族に集中していた。アーミッシュの部落は小さいから、4つの家族の人数は部落全体の16%を占める。自殺多発の原因は、単に心の病が家系にあっただけでは説明出来なかった。何故なら、他の家族にも心の病があり、自殺率は高くなかったからである。

その後の調査でも、自殺家系の特徴を説明出来ていない。社会学的、心理学的、遺伝子学的にも解明されなかった。今の所、専門家も自殺については色々な要素が絡み合っていると言うだけである。

「自殺原因を探るなんて不可能だ。今後、数百年も同じ議論をするのでは無いか」とアメリカ自殺予防協会の会長であるアラン・バーマン氏は言う。

しかし、ボイドにしてみれば、遺伝子云々より、母の自殺が家庭に及ぼした影響の方が余程深刻である。同様な事が他の自殺未遂者にも言えるであろう。

母がホテルでピストル自殺をして以来、家族はその衝撃で粉々になってしまった、とボイドは言う。ボイドの父は母親の行動を厳しく批判した。しかし、ボイドの兄弟であるマイケルは、母親と共にいたいと言って、一ヵ月後に16歳の年齢でピストル自殺をした。マイケルの双子の兄弟であるミッチェルも、先例にならって自殺未遂を繰り返した。その中には、ノースカロライナのアッシュビルにある一番高いビルディングから飛び降りようとした事もあった。後に、彼は分裂病と診断されて、36歳の時に下宿で服毒自殺をした。

ボイドの姉妹であるルース・アンは結婚して男の子を産んだ。しかし、男の子が2歳の時に理由不明で子供を銃で撃って、自分もピストル自殺をした。享年は37歳であった。彼女の自殺の4ヶ月後、父のアレン・ボイドも、やはりピストル自殺をした。ボイド自身も3回自殺未遂をしている。

「母親が家族全員に種をまいた。我々は母親の自殺を見て、どうするか決定したようだ」とボイドは言う。彼はアッシュビル市民タイムズ紙にシリーズで登場した。今は”家族の伝統:ある家族の自殺の記録”と言うタイトルの回想録を執筆している。

「人間は集団で生活する動物であるから、お互いに頼りあっている。人々に私に起きた事を伝えれば、多少とも世の中の自殺を食い止める事が出来るでしょう。もし、貴方が自殺を免れたなら、貴方の家族が同じ経験をしないように努力する義務があるであろう」と、この大変背の高いボイドは、鼻にかかった声で語りかける。

研究者は、家族を自殺に走らせるのは、その家族の受けた精神的苦しみと言うより、自殺を起こさせる遺伝子にあると考えている。ブレント氏は、自殺が多発する家系に共通するものは何かを研究しているが、結果は遺伝子説を裏付けている。ブレント氏の研究チームは自殺家系の一人一人、その兄弟、その子供達を調べた。その結果、19人の自殺傾向のある両親(この両親の兄弟も自殺傾向がある)から生まれた子供は、他の両親から生まれた子供に比べて、はるかに高い自殺危険性がある事が分かった。彼等は、自殺傾向が少ない家族の子供に比べて、8年早く自殺を試みている。

研究者は他の要因、例えば虐待、不幸、精神病質等も調べたが、衝動的行動以上の要因にはなり得なかった。次ぎの研究は衝動的行動を起こさせる遺伝子の発見であるとブレント氏は言う。

「我々は傾向のその又傾向を裏付ける因子を探している。きっと自殺を起こす遺伝子が発見されるだろう」とブレント氏は言う。

扱い難い自殺学と言う分野では、毎年のように概念の争いが繰り返される。必ずしも多くの学会員が遺伝子説を支持するわけでは無いが、今の所、生物学的因子説が社会学、文化理論、精神力学理論より有力である、と85歳になるアメリカ自殺学協会の設立者であるエドウィン・シュニードマン氏は言う。

「家族で自殺が多いと誰かが言った場合、誰もそれを遺伝子に結びつける人はいないでしょう。例えば、ある家族ではフランス語を話す人が多いとして、その家族ではフランス語が遺伝しているわけではない。各家庭はそれぞれの歴史があり、神秘が隠されている。うちの家族にはのんべーが多い、と自慢げに言う人もいる」とシュニードマン氏は言う。

アレン・ボイド・ジュニアに戻ると、心理療法と薬で鬱は大分快復している。最近はボイド家の次ぎの世代を明るく考えられる余裕が出てきた。

「私の両親は犬、猫を上手に育てた。私も良い犬、猫の育て方を知っている。私が、もし明るく積極的でバラの香りの好きな女性と結婚したら、良い人間を育てて、ボイド家の悪い傾向を一掃出来るとおもうのだが」とボイドは言う。

拒否される衝撃 

拒否される衝撃 

                    ワシントン発AP  2003年10月9日

  


どうして我々は社会から拒否された時、これほど傷つくか 
体が痛むと同じくらい我々の脳が打撃を受けるからであろう。ASSOCIATED PRESS
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仏教は健康に良いか

仏教は健康に良いか


ニューヨークタイムズ マガジンより
2003年9月14日

By STEPHEN S. HALL
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トラウマ記憶は抑圧されるか エコノミスト誌 2003年11月13日号より

トロウマ記憶は抑圧されるか
エコノミスト誌 2003年11月13日号より



フロイトの抑圧理論によると激しい心の衝撃を味わうと我々はその前後の記憶を忘れてしまうと言う。理由は辛い記憶を思い出して苦痛を味わいたく無い為であるとフロイトは説明する。精神科医の一部では治療を目的として忘れられた記憶を思い出させようと今まで試みて来た。

トロウマ記憶の抑圧は精神分析では当たり前であるが、今までの数多くの科学的研究にも関わらずその存在が証明されていなかった。トロウマ記憶の抑圧は科学的に興味があるだけでなく、犯罪立証の上でも見逃せない。催眠状態で回復した記憶、例えば子供時代に受けた性的虐待などの記憶はその十分な裏付け証拠が無くても人を刑務所に送り込む事ができるからである。そればかりでなく、犯罪現場を目撃した証人の記憶は犯人の特定に必須である。しかも目撃者の証言が食い違う事が多い。だからこそ不快な経験とその記憶の関係を解き明かすのが科学の重要な任務なのである。

今週号のthe National Academy of Sciencesの会報ではロンドンユニバーシティーカレッジのブライアン・ストレンジ氏が面白い報告をしている。ここでは被験者の虐待記憶を調べるのでなく、コンピュータースクリーン上に流れ出る言葉を被験者に見せて実験している。

不完全な記憶

殺人とか大虐殺等の言葉は不快な感情を引き起こす。集会、会議、打ち合わせ等の言葉は感情的にニュートラルである。実験では前もって何をするか教えられていない被験者はコンピューターのスクリーンに流れ出る言葉を見つめる。言葉は一回に一語ずつ現れて、全てを見た後に被験者は何の言葉があったかを思い出すように言われる。今までの実験では感情揺さぶる言葉のほうが中立な言葉より良く覚えている場合が多い。ストレンジ氏が知りたいのは中立な言葉と感情を伴う言葉を流した時に、感情を伴う言葉の近くにある中立な言葉をどれほど覚えているかであった。実験では感情を伴う言葉の直前にある中立な言葉は、そうでない場合に比べて思い出せない場合が多かった。

過去の実験では感情が伴うと記憶力が上がると判明している。理由は感情をつかさどる脳である扁桃体にストレスホルモンのノルエピネフィリンが作用する為と説明されて来た。そこでストレンジ氏は更に進めて、激しい感情に伴う記憶喪失が同じメカニズムにより起きているのか解き明かそうとしている。

扁桃体に作用するノルエピネフィリンをプロプラノロル(propranolol)と呼ばれる薬品で活動を抑えることができる。そこで被験者にプロプラノロルを飲んでもらいテストした。すると感情を伴う言葉と中立な言葉では記憶に違いが見られなかった。同時に感情を伴う言葉の直前に現れた中立な言葉の記憶は改善された。

研究チームは更にアーバック・ウィーズ病と呼ばれる遺伝子欠陥により引き起こされる病気の患者も実験した。アーバック・ウィーズ病とは遺伝子欠陥により扁桃体に障害を受ける病気である。実験前に脳スキャンで彼女の脳を調べ、確かに扁桃体の欠損を確認している。また彼女の認識力、知性、注意力、短期長期の記憶力を調べたが全て問題の無い事が分った。実験では感情により彼女の記憶は左右されない事が分かった。感情を伴う言葉も中立の言葉も同じように良く記憶されていた。もちろん言葉の順序にも影響されなかった。

記憶のギャップ

ストレンジ氏が今実験している記憶とは明示的記憶と呼ばれるものであり、事実、経験あるいは知識と関連していて、意識的努力で回復でき、言葉で表現できる記憶である。この種の記憶は幾つかのステップを経て形成されると考えられている。最初のステップは新しく学んだ情報を神経細胞同士の連結に移し変える段階である。このステップでは脳の構造に永続的変化は起きない。2番目のステップでは脳の構造に変化が生じる。即ち脳神経細胞間の連結作成でなく連結を解消する。このステップには遺伝子が関与し、新しい蛋白質が形成される。感情に伴う記憶喪失はこの生化学的脳の変化によるものでは無いかとストレンジ氏は推測している。

この推論を支持する論文はハーバード大学のロジャー・ピットマン氏のPTSD研究にも見られる。ピットマン氏は最近プロプラノロルをもちいてPTSD発生を防止できるかどうかの実験を行った。PTSDとは飛行機事故とか戦争などを経験した人がその後、激しい不安発作を経験する病気である。彼はトロウマを起こす場面で脳から分泌される過剰のストレスホルモンがこの強い記憶を形成しているのではないかと推測している。記憶を形成するには時間がかかるから、このホルモンの活動を抑制する物質をトロウマの直後に作用させれば激しすぎる記憶を弱める事ができるはずである。そしてこれが事実であるのが証明された。激しい心的衝撃を受けた直後にプロプラノロルを受けた患者は一ヵ月後PTSD症状の緩和が認められた。

これらの実験結果をみると一見矛盾しているように見える。ストレンジ氏が観察した事実は感情動揺の直前記憶喪失であるのに対して、実際に望ましいのは事件そのものを全部忘れてしまう事であろう。しかし研究室での中立な言葉を用いる実験は児童虐待や戦争の経験とは大分違う。はっきりしている事は記憶喪失、あるいは記憶の作成にはストレスホルモンが関与していると言う事だ。

記憶も含めて生命の全ては進化の結果獲得されたものであり、あるものを忘れた方が良い場合は生物はその方向に進化すると考えられる。確かにPTSDを見ると、人はこの種の記憶を忘れた方が良さそうだ。実際多くの人はPTSDを起こさず回復している。だからPTSDとは記憶を制御する機能に問題が起きた結果と解釈できる。

だからフロイトがトロウマ被害者が記憶を抑圧して忘れ去っていると説明しているのは部分的に正しい。しかしそのメカニズムについては判断が間違っている。未だ部分的にしか分っていないが、記憶は抑圧されたのでなく、最初から形成されなかったと考えるべきであろう。そうならどんな精神分析技術をもちいても最初から無い記憶を戻せるわけは無い。裁判でも目撃証言の信憑性には十分注意をを要するし、セラピーで子供の頃の記憶を思い出させる場合も同じ注意が必要であろう。  

細胞自身による短期記憶保持

細胞自身による短期記憶保持

2009年1月26日
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境界領域者の脳の違い

境界領域者の脳の違い

アメリカ国立精神衛生研究所 サイエンスアップデートから
2008年10月2日 
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ADHDは脳の成長の遅れ

ADHDは脳の成長の遅れ

アメリカ国立精神衛生研究所 プレスリリース

2007年11月12日

Jules Asher
NIMH Press Office
301-443-4536
NIMHpress@nih.gov

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統合失調症は脳の発達障害

統合失調症は脳の発達障害


アメリカ国立精神衛生研究所 プレスリリース

2007年10月17日

統合失調症では、脳内で神経伝達物質を作る遺伝子のスイッチが時々オフになるために起きている可能性がある。前頭前野皮質が発達する段階ではこの遺伝子のスイッチは次第に活発にオンになるが、統合失調症の患者の脳ではこのスイッチのオン状態が活発になっていなかった。所で前頭前野皮質とは高度の思考と決断をする脳の高等部位である。

この研究はアメリカ国立精神衛生研究所とアメリカ国立子供と人間の発達研究所との共同資金援助で行われた。

遺伝子GAD1はガンマーアミノ酪酸(GABA)の生産に必要な酵素を作る。この遺伝子がより多くオンの状態になるとガンマーアミノ酪酸が多く生産される。ガンマーアミノ酪酸は、神経細胞間で交わされる信号の量をコントロールする重要な脳内神経伝達物質の1つである。

統合失調症では、脳の発達段階での障害とガンマーアミノ酪酸合成の障害が今まで指摘されて来たが、そのメカニズムは分かっていなかった。今回の研究で、統合失調症の発症には後成的反応の欠陥、即ちGAD1酵素の生産を促す遺伝子スイッチに障害が発見された。

今回の発表はシャラム・アクバリアン、シェンスン・ファンとマサチューセッツ医大、ベイラーカレッジ医大の研究チームが「神経科学誌」10月17日号に発表した。

「この発見は統合失調症の研究に新しい一歩を与えた。統合失調症の発症にはGAD1酵素の減少とガンマーアミノ酪酸の障害が絡んでいる。何故この現象が起きるか、そのメカニズムを解かないとならない」とアメリカ国立精神衛生研究所の所長であるインセルは言う。

もう1つの酵素のMll1も後生的役割をしている。遺伝子のスイッチがオンになるには蛋白質のヒストンの構造が一時的に変化する必要があり、その結果DNA上の遺伝子青写真が露出する。統合失調症の患者では、酵素Mll1の動きが変化していて、ヒストンの一時的構造変化が起きていないと研究では言う。ネズミの実験では、統合失調症治療に使われるクロザピンが、この後生的欠陥を補正していた。

新しい統合失調症薬を開発するには更に詳しい分子メカニズムを知る必要がある。クロザピンを始めとする現在投与されている薬は効果もあるが副作用も強く、新薬が期待される。

GAD1遺伝子の他の3つの変異体も脳の発達段階で障害を起すと、今回の発表は言う。それら変異遺伝子もガンマーアミノ酪酸の合成過程で障害を起していた。

「統合失調症は発達障害であり、前頭前野皮質が完成する直前に何等かの障害が起きて発病すると考えています。その障害が何かが見えて来た。予防と治療の可能性があると思う」とアクバリアンは言う

前頭前野皮質が不安を解消する

前頭前野皮質が不安を解消する

By Amanda Onion
 
恐怖とは何であろうか、生活を破壊してしまうのような恐怖、不安を我々はどうして対処出来るであろうか。ネズミを使った実験によるとこの不安の処理は感情では無く、我々の生存に欠かせない本能のようなものが関わっているのが分かってきた。今回のネイチャー誌の発表で脳がどう不安を処理し、鎮めるのかが分かってきた。将来神経症で悩む人を助ける薬の開発につながるのではと期待されている。

「ネズミを使った我々の実験結果から、不安はネズミの脳のある部分を刺激する事によって鎮静化出きると分かりました。この結果が神経症治療薬の開発に役立つとよいのですが」とプエルトリコのポンス医科大学の生理学教授であるグレゴリー・クワーク氏は語る。

恐怖の中心
恐怖の中心とは扁桃体と呼ばれるアーモンド状の内部脳がそうであると最近は考えられている。扁桃体は動物が危険であるかどうか判断する中心であり、ここから脳の各部、体の各部に危険信号を発信する。この扁桃体からのシグナルがホルモン分泌を促進し、その内のコルチゾルは発汗、筋肉の緊張を促す。

ここでクワーク氏を中心とするチームは脳の他の部分である前頭前野皮質に注目した。氏は前頭前野皮質が安全の確認信号を出す部分ではないかと狙いをつけていたからである。クワークチームはネズミに音を聞かせた後に電気ショックを足に与えた。これを続けるとネズミは音を聞いただけで恐怖を引き起こすようになる。

電気ショックを与えられていたネズミに今度は音だけを与える。するとショックの記憶は次第に遠ざかり、音を聞いただけではネズミは反応をしなくなる。残るグループには恐怖の条件ずけした後にネズミの前頭前野皮質に電気刺激を与えた。

クワーク氏によると、前頭前野皮質を刺激されたネズミは恐怖の訓練を受けていないネズミのように行動をした。毎回音と共に電気ショックを与えても音だけでは恐怖反応は生じなかった。「恐怖そのものは消えていないと思う。しかし前頭前野皮質が恐怖の反応を抑える重要な働きを持つと我々は考える」とクワーク氏は言う。

前頭前野皮質が音声を聞くと実際音声に伴い危険が襲ってくるかどうか脳は判断する。もし大丈夫と判断すると前頭前野皮質はオールクリアーシグナルを恐怖の中心である扁桃体に発する。このシグナルは扁桃体の恐怖反応を抑制する事になる。オールクリアシグナルはその時の状況判断により発せられるようである。

「例えば私が映画館で火事だと叫んだとしよう。人々は出口に殺到するでしょう。しかし野外のパーティーで火事だと叫んでも人はそれほどパニックにはならない」とバーモント大学の心理学者であるマイケル・ブートン氏は言う。

もし神経症とはこの前頭前野皮質の恐怖抑制するシグナルに問題があって起きているなら、そして人間にもネズミでやったような前頭前野皮質を刺激してオールクリアーシグナルを出すように出きるなら、電磁波でこれが可能かも知れない。ネズミと人間には大きな違いがあり、今の段階では何とも言えないが、今度の実験が神経症治療、PTSD治療に大きな可能性を秘めているとクワーク氏は言う。

「この実験結果を大変興味深く見ている。実験結果が示すのはPTSDの患者では前頭前野皮質が健康な人ほど活発に作動していないと言う事でしょう。前頭葉を活性化するPTSD治療が考えられるが、未だ今の時点では何とも言えない」とサンフランシスコ退役軍人病院のPTSD部門のトーマス・ニーラン氏は言う。

現在行われているPTSDの治療は恐怖を起こす環境を心理療法が作りだしそれに慣れる訓練をするわけだが、効果があっても長続きしないとニーラン氏は言う。電磁波で前頭前野皮質を刺激する治療法は大いに可能性があるが、それでも恐怖の記憶を消す事は無理ではないか。問題は恐怖の記憶を消すので無く、その記憶をパニックを引き起こさない記憶に起きかえる事だ。消せないから良い。何故ならその記憶は重要であり、将来の注意になると氏は続ける

犯罪を起こすのは幼児虐待か、あるいは遺伝子か。



犯罪を起こすのは幼児虐待か、あるいは遺伝子か。


By Adam Marcus
HealthScoutNews Reporter
2002年8月2日(HealthScoutNews)
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脳細胞に刻まれた傷

脳細胞に刻まれた傷

アメリカ国立精神衛生研究所  プレスレリースから
2006年 2月27日 
担当: Jules Asher
アメリカ国立精神衛生研究所 広報室
電話:301-443-4536(USA)
Eメール:NIMHpress@nih.gov
自分より強いネズミに繰り返し攻撃を受けているネズミは鬱状態になるばかりでなく、脳の細胞にも傷を残すとの新しい研究報告があった。この研究はアメリカ国立精神衛生研究所の委託によるものであるが、何故鬱病が治すのが難しいかこの研究で分かる。

この実験では、鬱状態になったネズミの脳では、海馬の中で重要な役割をする蛋白を作る遺伝子のスイッチが切られている事が分かった。既存の抗鬱剤を使った治療をすると、抗鬱剤は代わりのメカニズムを活性化させて、一時的にネズミの鬱状態を回復させるが、遺伝子のスイッチをオンにする事は出来なかった。真の治療をするには、ストレスにより傷を受けた脳内の細胞を修復する以外に無いであろうと、テキサス南西医療センターのエリック・ネスラー氏は言う。氏は2006年2月26日にNature Neuroscience誌のインターネット版にこの研究を報告した。

「我々の研究は慢性的ストレスが脳の細胞に変化を及ぼし、その影響がかなり続く事を示しています」と氏は言う。

ネズミが毎日強いネズミに攻撃されて10日も経つと鬱状態になり、引き篭もって他のネズミから逃げるようになり、その症状は何週間も続く。海馬にある代表的な遺伝子の表現が三分の一に抑制され、数週間もそのままであった。しかし、
抗鬱剤の一種であるtricyclic imipramineを継続的に投与た所、脳由来神経栄養因子(brain derived neurotrophic factor)に関わる遺伝子の表現は正常値に戻り、ネズミの引き篭もり状態は回復した。しかしネスラー氏によると苛めによるストレスは更に他の遺伝子にも影響を与えるていると言う。

この研究では、度重なる攻撃が脳由来神経栄養因子の内部機構にどのような変化を起すかに迫っている。彼等は遺伝子表現の変化をヒストンと呼ばれる蛋白質の変化の中に追った。ヒストンはメチル化と呼ばれる化学プロセスで遺伝子のスイッチを入れたり切ったりしていると言われている。メチルグループと呼ばれるものがヒストンに付着して遺伝子のスイッチを切る。注目に値するのは抗鬱剤であるイミプラミンはこのメチルグループを取り去ることが出来ない事だ。従って抗鬱剤では将来に渡って潜在的鬱状態発生の原因を除去できない。

イミプラミンは抑制された脳由来神経栄養因子遺伝子の表現を回復させたが、それは補償的メカニズムと呼ばれるもので、アセチル化とも言われ、分子が遺伝子に乗り移りメチルグループを圧倒する。イミプラミンは酵素(Hdac5)を抑制し、アセチル化の邪魔を取り除く役割をする。

「長期に渡るストレスによる海馬の中の細胞の変化、あるいは他の脳の細胞の変化は簡単には元に戻らないであろう。鬱状態を真に治すにはメチルグループを取り去る方法を発見しないとならない」とネスラー氏は言う。

注意欠陥多動性障害と脳の変化

注意欠陥多動性障害と脳の変化

アメリカ国立精神衛生研究所
ブレイキングニュースから

2006年7月19日 
ADHDの画像

MRIスキャンから合成されたADHD児童の脳の写真


左の青、紫の部分が注意や運動をコントロールする脳の領域で、ADHD児童では皮質が健康な児童より薄くなっている。この写真では上が脳の前部にあたる。

(アメリカ国立精神衛生研究所小児精神科提供写真)

注意欠陥多動性障害(attention deficit hyperactivity disorder=ADHD)の症状の強さは、脳の構造状の問題と関連しているとアメリカ国立精神衛生研究所の研究で分かった。例えば、児童でも比較的症状が軽い場合、脳の前部にある記憶中枢である海馬が肥大しているのが発見された。研究者によればこの肥大は児童の脳がADHDの過剰の衝動や動きを抑制しようとして、補完的に反応したと説明する。

また、ADHDの児童では感情の中枢である扁桃体が小さいのを発見した。扁桃体の縮小はADHDとの関連で重要である。同時に扁桃体と前頭前野皮質の連結も弱いのを観察している。連結が弱ければADHD児童が衝動を押さえる事が難しいと考えられる。

カースチン・プレッセン氏(コロンビア大学)とブラッドレイ・ピーターソン氏(ペンシルバニア州立大学)はMRIを使って51人のADHD児童及び青少年と63人の健康な児童及び青少年の脳をスキャンした。この報告はArchives of General Psychiatryに2006年7月3日に発表された。

一方、別の研究では注意をコントロールする脳の皮質がADHD患者と、ADHDが改善していない人で薄く、これがADHDの原因では無いかと推測している。ADHDが改善した10代の若者では右側の皮質が厚くなっており、この皮質の厚さとADHDの改善度合いが関係していると、アメリカ国立精神衛生研究所の小児精神科のフィリップ・ショー氏とジュディス・ラプポート氏は言う。

学齢期の子供の内、3~5%がADHDで、彼等は何時も衝動的に行動し注意が散漫である。ADHDは脳の回路の異常から起きていると考えられているが、その児童の内の3分の1が10代後期になると症状が改善される。今までの研究で、ADHDの患者では脳の多くの部分が普通の脳に比べて小さいのが分かっていたが、この小ささが症状とどう関係があるのかが分からなかった。

原因を調べる為に、平均年齢9歳位の児童でADHDを持つ163人と、健康な166人の児童の脳をスキャンした。更に両グループの約60%にあたる人達の脳を平均5.7年後に再度スキャンした。

その結果、ADHDのグループでは皮質の内、特に前部がより薄かった。前部皮質は注意と動作に関係している。6年後の再検査の時に症状が改善していないグループではその薄さがより顕著であった。大幅に症状が改善した児童では、注意に関係がある右頭頂皮質(right parietal cortex)が厚くなり、健康な児童と殆ど変わらなくなっていた。

「神経細胞の粘り強い結合力がADHD児童の皮質を正常化し、複雑な脳の回路を持続的に形成させて症状の改善に結びつけたのでしょう」とショー氏は言う。

MRIで新発見が相次ぐが、それでもMRIは研究用の装置であり、診断や予後の判断に使えないとショー氏は言う。

最近の脳スキャンの現状

最近の脳スキャンの現状
Ronald Kotulak
シカゴトリビューン記者
2003年12月3日
最近の脳スキャン技術の進歩はめざましく、分裂病の原因が次第に分かって来た。2日のシカゴからの報告によると、分裂病ばかりでなく、難読症、非社会的行動等の問題を解き明かす日が来るのでは無いかと期待されている。

「最近は脳スキャン装置を用いて脳の内部を生きている状態で見ることができます。ですから脳の構造やその動きが具体的に見えるわけです」とニューヨーク市アルバート・アインシュタイン医科大学の放射線と心理学の助教授であるマンザー・アシュタリ氏は言う。

氏は最近分裂病と診断された10代の若者の脳スキャン写真を示した。写真では脳内のミエリン化(myelination )と言う現象に問題が起きていると氏は説明する。ミエリンは白色物質と言われ、脳細胞を絶縁する働きがあり、これにより脳細胞は情報を確実に伝達できる。この発見は北アメリカ放射線学会の会合でアシュタリ氏により発表された。

アシュタリ氏と精神科助教授のサンジブ・クマラ氏は改良版MRIスキャンである拡散テンソル磁気共鳴画像法
を使って白色物質であるミエリンの撮影に成功した。ミエリンは従来のMRIでは撮影が困難であった。

脳内でスイッチボックスの役割をするヘッシル回と呼ばれる部分が不完全なミエリン化により作動不良になっているのが分った。健康な脳では耳から入ってくる音はこのスイッチボックスにより前頭葉と言われる判断の中枢部分に送られる。

分裂病の一般的症状は幻聴であるが、スイッチボックスが正常に作動しない為に前頭葉に音声が伝わらず、幻聴現象が起きているのではと研究者は推測している。なお分裂病の発生率はアメリカ人口の1-2%である。

「ヘッシル回と前頭葉を結ぶ連絡路がこの種の情報を一元管理しているのですが、連絡路に問題が発生して情報が上手く伝わらなくなると、混乱が生じ、自分の脳の声なのか外部から聞こえる声なのか分らなくなる」とクマラ氏は言う。

実験は分裂病と判定された20人の10代の若者で行われ、彼らのスキャン写真は健康な若者17人のそれと比較された。分裂病の診断は幻覚、妄想、思考の混乱、奇怪な行動、それと陰性症状である動作の不活発あるいは活動する喜びの喪失等の症状を2つ以上持つことで診断された。

拡散テンソル磁気共鳴画像法とは現在ある脳スキャン技術の1つで、生きている脳を様々な条件下で観察でき、脳そのものの観察と化学物質の動きを調べることができる。

「現在我々は脳と各種病気の関連性について新しい情報を得ている所です。私が研究している分野では文字通り殺人犯や凶悪犯の脳を研究しています。こんなことはつい少し前には考えられなかったことではないですか」と南カリフォルニア大学の神経学者であるエイドリアン・レイン氏は言う。

レイン氏によると凶悪犯の脳梁
には構造的にも機能的にも重大な異常が認められるとしている。脳梁は脳の左半球と右半球を連結する神経線維の塊で左右半球の情報伝達をすると同時に、感情のプロセス、注意の喚起、覚醒等に重要な働きをしている。ここに問題があると人を凶行に駆り立てるのでは無いかと推測される。

「精神異常者は健全な感情が鈍磨していて社会性が消滅している。恐らく脳梁での神経細胞同士の配線欠陥によるものと推測します」とレイン氏は語る。

アシュタリ氏が発見した若年分裂病患者の脳のミエリン化不全は大人にも発見されて、大人ではミエリン化不全を起こしている部分が更に広がっていると氏言う。即ち分裂病の初期は部分的ミエリン化不全であるが年を取るにしたがって他の脳の部分に広がると考えられる。

次の研究としては分裂病発病リスクが高い子供を調べて回の部分に初期の変化が発見できるか、発見できるのなら、それが診断材料になるかだ、とアシュタリ氏は言う。彼女の研究はNIMH(国立精神衛生研究所)と分裂病鬱病研究協会の援助の元になされた。

もし分裂病ではミエリン化に障害があるなら、この白色物質を再生する薬の開発も可能である。あるいは、ある種の栄養不全より起きたとも考えられるから、それなら食餌療法も開発できる、とアシュタリ氏は言う。

この会議では更にウェイク・フォレスト大学のジョナサン・バーデッテ氏による研究報告もあった。氏によると難読症患者の脳にも脳スキャンではっきり認められる異常が発見されたと報告している。難読症はアメリカでは10人に1人がかかっていると推測される。

fMRIを使ったこの研究によると、患者に音声を聞かせてそれに対応する文字を探させるテストをした所、側頭頭頂(temporoparietal)と呼ばれる部分が正しく反応していなかった。ここは音声を言葉に結びつける働きをすると考えられている。

この研究を更に続けると難読症の早期発見技術につながるだろうとバーデッテ氏は言う。

記憶を消す事ができるか

記憶を消す事ができるか

By ROBIN MARANTZ HENIG 

ニューヨークタイムズ マガジン
インターネット版
2004年4月4日号から




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若者の突飛な行動を起こさせるものは何か

若者の突飛な行動を起こさせるものは何か

By Claudia Wallis 
タイム誌 Science
2004年5月31日号から

ホルモンの噴出、そうかも知れない。しかし脳の構造的変化も見逃せない。この2つが若者を突飛な行動に走らせると最近の科学が説明している By Claudia Wallis

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心のミステリー 薬への疑い

心のミステリー
薬への疑い

ワシントンポストインターネット版から
By Shannon Brownlee
2004年10月3日(日)
 何の変哲も無いベテスタホリデーインと言うホテルの舞踏会場で公聴会が開かれていた。この公聴会では家族からのSSRIによる副作用の発表があった。家族とはその子供が抗鬱剤を服用後、首吊りやナイフで自殺した家族である。アメリカ食品薬品安全局がこの公聴会を聞いて抗鬱剤に副作用として自殺を引き起こす可能性がある由の警告ラベルを貼るように決定したのであるが、ここ迄くるには余りにも時間がかかった。13年も前から一部の家族が危険な副作用を指摘していたにも関わらず決定までのびのびになっていた。

何故そんなに時間がかかったのか。1990年には既に一部の研究者がSSRIは若者が飲むと自殺を引き起こす恐れがあると報告をしている。それはプロザックが始めて市場に出てから僅か3年後であった。専門家の間ではこの薬が時に若者には危険があることや、多くの人にはそれほど効果がない事は分かっていた。しかし副作用は大きな問題になる事が無かった。

専門家が警告していたにもかかわらず、誰も真剣に聞かなかったのだ。「副作用を敢えて無視する風潮があったと言う事でしょう」とバンクーバーのブリティッシュコロンビア大学子供病院精神科医であるジェーン・ガーランド氏は言う。「我々の手にする臨床のガイドラインではSSRIは安全で効果があると言っている。公表されている情報は皆、SSRIは効果があり副作用は無視できる言っていて、それを疑う意見は殆ど無かった」

集団的間違いの問題はジークムント・フロイト時代から精神医学に存在していた。心を理解するとは大変難しい。一般の診療のように血液検査をして患者が鬱状態か不安状態か強迫行為の状態かを診断するわけではない。むしろ患者が述べる主観的訴えや医師の観察で症状で診断する。その結果、重大な精神障害と考えられていたものが、突如不自然な振る舞い程度に変化していたりする。例えばホモセクシュアルは昔精神の病気と考えられていたが、今は単なるライフスタイルの問題とする風潮がある。逆に極度の恥ずかしがりやは今は神経症と言う精神障害に格上げされている。

心の病気の診断は部分的には治す手段に影響されていた。製薬会社は時々の流行の心の病に対して薬を発売してきたわけであるが、精神科医は製薬会社の甘言に影響されやすい。1960年代には多くの心の病が不安症と判断されて、入院するまでに至らない患者はバリウムと呼ばれるトランキライザーが処方された。1980年代では患者は鬱状態と診断されてトランキライザーからエラビルとかナルディルと呼ばれる抗鬱剤に取って代わられた。

しかしこの初期の抗鬱剤には問題があり、ナルディルが属するモノアミン酸化酵素拮抗剤と呼ばれる薬グループは急激な血圧の上昇が起こす危険性があり、エラビルと呼ばれる三環系抗鬱剤は飲みすぎると死に至る場合があるために自殺に用いられたりした。そしてその後、イリライリ社のプロザックの登場であるが、過剰服用の危険性がないから自殺には安全と言うのが宣伝文句であった。プロザックの後にはゾロフト、パクシル、セルゾン、ラボックス、エフェクサーと次々に抗鬱剤が開発された。しかしこの新薬が属するSSRIと呼ばれる薬は従来からある抗鬱剤と効果は変わらないのであるが、その事実は無視されたし、精神科医の多くももろ手を上げてSSRIを歓迎した。その一方で副作用が嫌で服用を諦めた患者も多くいた。

「新しい抗鬱剤に対する期待は異常であった。恐らく開発に国家の税金を沢山投入した関係上その成果を大きく取り上げたかったのであろう」とでデューク大学の精神科名誉教授であるバーナード・キャロル氏が言う。

もう一つこの抗鬱剤が大変受けた理由としては神経伝達物質とか脳内化学物質とかの言葉が新しい精神医学の登場を感じさせたからである。この理論では鬱状態と自殺は神経伝達物質であるセロトニンのレベルが低い事と関係があるとしている。SSRIはセロトニンの再吸収を阻害してセロトニンの量を増やすので鬱状態を解消するわけである。

鬱病がアルツハイマー病の様に生物学的理由で発病しているとの考えは患者には受け入れやすい。とかく心の病には暗いイメージが付きまとうからである。最早、心の病は個人の欠陥、モラルの低下ではなく、脳の生物学的故障であると認識されるようになった。セロトニン理論は医学の分野にも大いにアピールしたがこちらは違う理由からである。今までは心は未知の分野であり、ミステリーに満ちていたが、それを説明出来るようになった。今やフロイトの抑圧とかセックスの理論は非科学的と退けられ、医師は患者に貴方は脳内の化学物質のバランスが悪くなって病気になっていると説明し、抗鬱剤が有力であると患者に言う。問題は心の病気がそんなに簡単に説明出きるのかだ。事実は低レベルのセロトニンと鬱状態との関係を説明する研究は大変少ない。自殺した人の脳内のセロトニンが健康な人のそれよりずっと低いレベルであると証明する研究は更に少ない。実際SSRIが本当に脳内でどのような役割をするかを詳細に知る人は誰もいないのだ。

社会でセロトニン理論が余りに受け入れられた為か、精神医学者はSSRIにも副作用があるのを忘れてしまった。 JA'>専門家の多くは患者の自殺の原因は鬱状態であり薬では無いと主張して来たが、実際は薬が自殺に追い込んだのである。ある研究では、全く健康な人に抗鬱剤を飲ます実験をして、被験者の中に自殺発作を起こす人がいたと報告している。

今までに若い患者がSSRIを飲んだ後に重症の神経症あるいは躁病の状態になったとの報告があったが、多くの専門家はそれをSSRIの副作用とせず、診断の再に見落とされた躁鬱病が現れたのだと解釈した。彼らの理屈ではSSRIが隠れている躁鬱病を表に出したのだと言う。

しかしSSRIを飲まなかった患者がその後、躁鬱病が出てきたなんて報告は今までに無い。むしろSSRIが躁鬱病を引き起こす原因になっていると考えた方が理屈にあう。例えばLSDは脳内の配線に変化を与えフラッシュバックを起こし、街中で取引される麻薬であるMPTPはパーキンソン病に似た症状を引き起こすのが知られている。

私は心の病を軽んじたり、SSRIはマーケットから退出すべきであるとは言わない。事実SSRIはある種の患者には大変有効であり鬱状態、不安、強迫行為の苦しみを和らげている。SSRIは疑いなく患者の自殺を救っている。薬を強く批判する医者でも警告付きで処方しているのが現実である。「SSRIはある種の心の病気には有効である。ただ十分注意が必要だ」とイギリスの精神科医であるデイビッド・ヒーリーは言う。

十分注意をしつつSSRIを使うべきであったのであるが、実際は10年以上にも渡ってメーカーは都合の悪いデータを隠匿し、生物学的に怪しい理論を主張し、一方精神科医は副作用情報を無視した。もうこの辺で患者も親も、医師、製薬会社も立ち止まって考えるべきでないか。

抗鬱剤が登場する以前は、鬱病の発生率は100万人に50人から100人程度と推定していた。今日ではアメリカ人口の10%が罹患していると言われている。これは30年前に比べて、なんと1000倍の増加であり、そんなに多くの人が鬱病になっているとは考え難い。一般に、精神医学は変わりやすく、その診断は主観的である。だから精神医学そのものが病気を作り出しやすいし、製薬会社の新しい薬を直ぐに受け入れやすい素地がある。

一方、製薬会社は薬を売り込むために多くの人が心の病気になっていると煽る体質がある。その風潮が病気を作り出し、医者も気安くSSRIを処方するものだから、子供が飲むSSRIの量が1990年代の半ばに27%も上昇している。現在は注意不全症とか偏頭痛、分裂病という診断のもとに、19歳以下の子供の100万人から300万人がSSRIを飲んでいる。SSRIが余り頻繁に使われるものだから、若者が気安く薬物の話しをするようになっている。

医師達も最近まで、SSRIを処方された若者の2~3%に自殺リスクが高まる事実に気がつかず処方を続けてきた。最も彼らにも言い分があって、医学の諸問題を解決すべく研究をして来て、この問題に手が回らなかったと言うであろう。しかしキャロール氏に言わせれば、多くの研究者はメーカーが提供する研究資金や便宜と引き換えに即ち製薬会社に協力して薬を政府の認可無しに市場に出そうとしていたのである。

だから、今もって医師はどの患者にSSRIが効果があって、どの患者には危険があるか説明出来ない。当然、SSRIが何故自殺や躁鬱病を引き起こすのかも分かっていない。ヒーリー氏が書いた本である”プロザックを食べよう”では「一体、健康を追求すべき研究者は我々に何をしたのか」と言っている。抗鬱剤開発の分野では多額の資金と人材が投入されたが、未だ脳は殆ど解明されていない。SSRIは今までで最も売り込みの激しかった薬ではあるが、決して十分に調査された薬ではなかったのである。

シャノン・ブラウンリーはバーナード・シュウォルツ研究所の主任研究員である。彼女はアメリカの薬剤の氾濫をテーマに本を書いている。

恋わずらいの脳

恋わずらいの脳
トロントスター紙 インターネット版から
2005年2月13日
ARLENE BYNON
(トロントスター紙記者) 

何故恋は麻薬中毒と同じなのか


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激しい恋を脳科学する

激しい恋を脳科学する

2005年5月31日
ニューヨークタイムズインターネット版
健康欄から

                
上がルーシー・ブラウンで下がヘレン・フィッシャー。17人の大学生から2,500枚の脳スキャン写真を取り、恋の苦悶と脳の変化を調べている。フィッシャーは「恋の苦しさは生死より強い」と言う。
右の写真は情熱に関連すると思われる脳の尾状核(caudate nucleus)を示す。


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今も生きるフロイトの影響

今も生きるフロイトの影響


ニューズウィークインターネット版から
2006年 3月22日 
By Jerry Adler
Newsweek

ウィーンのフロイトの研究室

療法文化の創設者であるフロイトが生まれて今年で150周年になるが、今も隠然たる影響力を持っている。何故この嘘が暴かれた精神科医が、尚我々の心をつかんでいるのであろうか。

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意識の謎

意識の謎

By STEVEN PINKER
2007年1月19日金曜
タイム誌インターネット版 健康と科学から


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記憶の移しかえ

記憶の移しかえ

ブラウン大学研究報告から

2006年11月14日


青い線が新皮質の活動曲線で、赤い線が海馬の活動曲線を示す。我々がぐっすり眠っている時には、赤い海馬の曲線と青い新皮質の曲線が同期していて、海馬の側の活動が僅かに遅れている。短期の記憶から長期の記憶への移し変えは夢を見ない深睡眠時に起きる。
(グラフはブラウン大学のマヤンク・メータ氏提供)

毎日の出来事は最初に古い脳である海馬に記憶される。この記憶を長期に保存する為に、海馬から新皮質(海馬の上を覆うように被さっている灰色物質)に睡眠時に記憶が移されると今までは考えられて来た。

専門家は今までこの理論で研究を進めてきたが、実際検証するのは難しかった。しかし、ブラウン大学の神経学者であるマヤンク・メータ氏は、ノーベル賞受賞者である生理学者のバート・サックマン氏と共同で、古い脳と新しい脳の対話を示す画期的実験結果を発表した。この発見は記憶の解明に影響を及ぼす事になるであろう。

「長期の記憶の形成プロセスは、我々が今まで考えていたのとは大分違うかも知れない。今回発見した現象は記憶の形成の一部なのか、あるいは今まで考えられていた記憶の移動は睡眠時には起きていないのか。何れにせよ、従来考えられていた皮質と海馬の睡眠時中の対話理論に疑問が生じた」とブラウン大学の神経科学科助教授のメータ氏は言う。

ノルウェー大学教授であるエドワード・モーザー氏は、海馬での記憶プロセス研究の一人者であるが、「この発見は、睡眠時記憶定着での海馬と新皮質の相互作用の考え方に重大な影響を与える」と氏言う。

実験では、ネズミの脳に電極を挿入し電気変化を調べた。ネズミに麻酔をかけて深い眠りを誘導し、脳には2つの電極が装着された。1つは新皮質の数千の神経細胞の電気変化を調べ、2つ目は海馬のたった一個の抑制細胞の動きを調べる。抑制細胞とは細胞間の交信を遮断する細胞である。

この1個の細胞の電気変化を記録する手法は、マックス・プランク医学研究所のサックマン研究室により開発されている。このやり方により、今回重要な発見が行われたわけだが、深い眠りにおいては海馬と新皮質は互いに規則的交信をしているのが分かった。交信は同期していて、脳波計では同じピークと谷が記録された。

過去の実験では、深い睡眠時に新皮質の細胞がリズムのある活動を開始すると、海馬の細胞は不規則に反応をした。眠りの中で両者が対話をするなら、何故同じ言葉を交わさないのであろうかの疑問が残っていたが、実は同じ会話を交わしていたのが分かった。細胞活動のタイミングは海馬側で少し遅れているだけて、会話は完全に同期していた。あたかも新皮質側で会話がこだましているようであった。

同期された古い脳と新しい脳の会話は、フェーズ・ロッキングと呼ばれる現象で、2つの重要な事実を示唆をしている。即ち、最初に会話を仕掛けるのは新皮質の側であることと、抑制細胞がこの会話を統御している事である。

この発見は、過去の実験データの解釈方法と、今後の研究の進め方に影響を及ぼすとメータは言う。

「2つの脳がどう会話するかが実験的にも理論的にも分かったので、今後学習と記憶を理解する上で役立つと思う。また、2つの違った脳で、2つの違った働きをする神経細胞の動きを同時に調べる事が出来たので、知覚、感情、動作等を研究する上で役に立つと思う。基礎研究と応用研究の両方で新しい分野が誕生しそうだ」とメータは語る。

不安の病理

最新の報告
不安の病理


ヨーロッパ分子生物学研究所の発表から
2007年6月4日

ネズミの海馬が曖昧な刺激に不安反応を示した時の着色写真
(ヨーロッパ分子生物学研究所提供)

神経症の人は、曖昧な不安状況を脅威、恐怖と取って過剰不安反応をする。イタリアにあるヨーロッパ分子生物学研究所のネズミ生物学研究質が、今回ネズミを使って神経症的不安の説明に成功した。Nature Neuroscience誌に発表された研究報告によると、神経伝達物質であるセロトニンの受容体と、海馬にある神経回路が曖昧な状況での不安反応に関わっているのが分った。

ネズミにある音を聞かせて次に電気ショックを与える刺激を繰り返すと、ネズミは音を聞いただけで身構えて恐怖反応を示すようになる。しかし実際の生活ではこのような単純な組み合わせは無いから、刺激があっても脅威は必ずしも迫らない。普通のネズミはこのようは曖昧な刺激に対しては、過剰な反応はしない。

ヨーロッパ分子生物学研究所のネズミ生物学研究質は、曖昧な刺激に対して過剰反応をしないためには、ある特別のセロトニン受容体が必要な事を突き止めた。セロトニン受容体1Aと呼ばれるもので、これを持たないねずみは曖昧な不安の処理が適切に行われず、過剰不安反応を起こす。理由はネズミの脳の神経細胞が適切に連結していないためである。

脳が発達する過程ではセロトニンは重要な役割をし、もしセロトニン受容体1Aが無いと脳の回路に問題が生じて、成長した後にネズミの行動に影響を与えるようになる。

「人間ではセロトニンの情報伝達不全が鬱病、神経症の原因ではないかと考えられていますが、ネズミでも同じ原因で不安の過剰反応が起きてしまうのです。次のステップは、この不安処理のまずさと不安行動がどの脳の特定部位と関連しているかを発見することです」とグロス氏は言う。

最新の技術では、生きているネズミの脳の特定部分の神経細胞活動をオフにする事ができる。その技術を使ってグロス氏らの研究チームは、海馬の特定領域がこの曖昧不安の処理に欠かせない役割をしているのを発見した。

「海馬にある特定の神経回路を閉鎖する事により、曖昧な刺激に対する不安反応を停止させる事に成功しました。この回路は不安の判定と処理に関わっているのでしょう。この回路が曖昧刺激を脅威と取る役割をしていたのです」とテオドロス・セトセニス氏(グロス研究室での共同研究者)は言う。

海馬は今まで学習と記憶に重要な役割をする脳の部位として知られたいたが、情報とか不測の事態の判断に関わる総合的役割をしているのが分った。

恐怖に反応する脳の回路は種を越えて多くの動物に共有されていて、人間でも不安反応に海馬が重要な役割をしている。

曖昧な不安にはセロトニン受容体1Aと海馬が関連しているのが分り、今後この方面から神経症病理の解明と、新しい治療法の可能性が出て来た。

楽観と悲観は隣り合わせ

楽観と悲観は隣り合わせ

アメリカ国立精神衛生研究所 サイエンスニュースから

2007年12月14日

人間は時として、とてつもなく将来を楽観的に見て、起こり得る危険を過小評価する傾向があるとニューヨーク大学Ph.Dであるエリザベス・ヘルプス氏は言う。しかし中程度の楽観はむしろやる気を引き起こし、心の健康を保つ上に重要であろう。

ヘルプス氏らの研究によると、楽観的幻想は悲観の極に現れる鬱状態と同じ脳の回路に起因しているのが分かった。前部帯状回はこの回路を使って扁桃体をコントロールしている。又感情をコントロールする神経伝達物質であるセロトニンを抑制すると、楽観も一時的に中断された。アメリカ国立精神衛生研究所の研究員であるウェイン・ドリベット氏の率いるグループが、fMRIを使った研究でこの事実を発表していた。ヘルプス氏等はこの発見を2007年10月24日号のネイチャー誌に発表した。

ヘルプス氏等は、人は何故長生きすると信じ、出世を当然と考え、離婚の可能性を低く見るのかを調べた。

15人の被験者が賞を獲得したとか、恋愛の破局とかを想像し、その楽観及び悲観の程度を指数化し、脳の活動の変化と比べた。

予想されたように被験者は、起こり得る楽しい事をより強く期待したのに対して、悲観的なものを遠ざけた。

帯状回と扁桃体を結ぶ回路は、楽観した時に活性化し連結を増した。帯状回の前の部分(吻側前帯状回)は楽観するとより活性化した。注:画像を参照、赤枠部分が吻側前帯状回。この吻側前帯状回(Rostral anterior cingulate)は楽観を予感する時に感情、動機、自分の過去の情報を動員して判断する。



しかし同じ回路が反対の役割もする。以前のドリベットの研究では、この帯状回と扁桃体を結ぶ回路が鬱状態にも関係していた。

最近のドリベット氏等の研究によると、健康な被験者でトリプトファンが抑制されると、今まで鬱状態を経験したことが無い人でも楽観が影を潜め、吻側前帯状回の活動に変化が認められた。(トリプトファンはセロトニンを体内で生産する時の前駆物質である)。

健康な脳でセロトニンが欠乏した時の反応は、Neuropsychopharmacology誌に2007年9月19日に掲載されている。

以前の報告でも鬱状態を経験した人ではセロトニンが抑制されると、感情をコントロールする回路に変化が生じ落ち込みを経験するとしている。

今回の研究では、20人の被験者は楽観的言葉に過剰に反応し、悲観的言葉に反応をする作業を最初怠っていた。彼等は楽観的言葉に呑み込まれ、楽観バイアスに入っていたのだ。しかし彼等がトリプトファンだけが不足した必須アミノ酸入りカプセルを飲むと、楽観的言葉に対する強い反応は消滅した。

fMRI脳スキャンでは、楽観的言葉に反応しない状態では帯状皮質の裏側にある部分も反応しなくなっていた。この現象をヘルプス等も指摘している。ドリベット等は、帯状回の活動の低下と扁桃体を結ぶ回路の低下が鬱状態の発生に結びついているのではないかとしている。

抗鬱剤はセロトニンのレベルを向上させ楽観を強化するため、人生の試練に直面しても回復力をもたらすのではないかと彼等は推測する。
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